イェジー・コシンスキ『ペインティッド・バード』

 

 二次世界大戦下、親元から疎開させられた6歳の男の子が、養い手を失い、東欧の僻地をひとりでさまようことを余儀なくされる。少年は、ユダヤ人あるいはジプシーと見なされ、地域住民から強烈な迫害を受け、また、ドイツ軍の目を逃れながら、生き延びていく。危機を何度もくぐり抜けながら、少年がおのれの目で見、またその身で経験した、暴力、虐待、性的倒錯の数々が、グロテスクなまでに展開されていく……

図書出版松籟社ホームページ :: ペインティッド・バード

 

読む前

 じつはこの本はけっこう昔から知っていて、実際棚から手に取りかけたときも2回くらいあったのですが、結局最後に精査する際に「まあ今回はいいか」と何度も見送ってきたものである。

 

 世の中にはエロ・グロのポルノが実質的な内容の大部分となっていて、でも「文学」の一環としてやっていることなのでこの作品はじつは高尚なんですよ、という顔をしている本がいくつかあると思っていて、まあそれはそれで面白いと思うときもあるのですが*1、個人的にはあまり好きではないんですよね。

 というわけで上掲した公式あらすじの最後の部分「暴力、虐待、性的倒錯の数々が、グロテスクなまでに展開されていく……」を見て、これもそれじゃないか?と警戒して、最終的には読まなかったのである。

 

読んでいる途中

 この本は第二次世界大戦中のヨーロッパ東部で、たまーに友好的な人もいるけど基本的にはどの村でも迫害される主人公の子供が、村を転々としながら、それぞれの村で起こる出来事を語っていく一話完結、みたいな話になっている。主人公は危険な目やしんどい目には合うものの、物語の主人公としていちおう加護は受けているので、そこが主題にはならず、どちらかというと狂言回しの役目である。

 

 ストーリーのひとつひとつが印象深く、また全体として狙いがはっきりしているというか、仕組みがわかりやすいつくりになっていて、シリアスな作品というよりはパロディ*2という感じ。

 全体としてよくできたフィクションだと思ったし、作品としての重点はよくできたフィクションを作ることに置かれていて、まあ、嗜好が前面に出ているようなポルノではないのかなという印象を受けました。*3

 

読んだ後

 この本には作者によるあとがきと、さらに訳者による解題がついていて、作者のあとがきはちょっと持って回った雰囲気で作品について語ったもの。そして解題は作品が受容された当時の状況や、作品に付属した読者たちによる論争について説明するものである。

 

 このふたつのテクストを読むことで、最終的に自分の中でこの『ペインテッド・バード』という小説についてなにを言えばいいのかよくわからなくなったんですよね。読む前から数えると、4回くらい、この本について持った意見を「ちょっと変えなきゃいけないな……」と思うタイミングがあった。

 

 これは読むだけじゃなく、ある程度調べたり教えてもらわないとわからないんだろうな……。

 

まとめ

 ……という経験をした作品でした。そんなに万人向けではないかもですが、ページ数も少ないし、あとやっぱりあとがきと解題でおおきくそれまでの印象が揺さぶられる経験ができる本というのもなかなか珍しいと思うので、ぜひ、興味があったら、数度迷った末でもよいので、手に取ってみてはいかがでしょうか。

*1:なんか生産的な読書をしたいなと思いつつ、体はだるくて身が入ってない日とかはこういう戦略の作品をありがたがれる気もするが。

*2:全体としていわゆる「教養小説」という形式のパロディをしている感じですよね。

*3:ここは諸説あるかもしれません。