私のなかの銀河

 

 海援隊に「私のなかの銀河」という曲がある。

 

私のなかの銀河

私のなかの銀河

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 海援隊がどういう立ち位置のバンドなのか知りたくて、「あんたが大将」と検索してみたら、HEYHEYHEYの太古の回でいまとは全くかけ離れた髪型とだいたい同じ顔をしているダウンタウンと適当を極めた絡みを繰り広げている武田鉄矢の映像が出てきた。「あんたが大将」は博多華丸が大好きな曲だと聞いていて、僕は博多華丸がとても大好きなので、きっと僕は「あんたが大将」も好きだろうと予想していた。

 

 はじめてまともに聞いた海援隊はとても良かった。海援隊は説教臭いおじさんというイメージが強かったけど、それは「贈る言葉」と金八先生以後に世間で形作られたものなのかもしれない。

 

 中高生のころの僕は、海援隊のような説教臭いおじさんの音楽が僕の人生に関わってくることなどありえないと思っていたが、実際にはそんなことを思うはるか以前にすでに関わりがあった。武田鉄矢ドラえもんの映画(のうち最初の17作)のエンディング曲を制作していて、そして僕は少年期をドラえもんの映画とともに過ごした。

 

浜辺で拾った 小さなこの貝殻が

どうして渦巻く形になったのか

教えてくれたのは 貴方でした

 

それは夜空の 闇に輝く銀河

その波音が貝には聴こえて

銀河に見とれて 渦巻いたという

 

私の耳も貝の殻

貴方の声が聞きたいけれど

貴方は星より遠い人

  武田鉄矢はとにかく歌詞が上手い。ただ腐ったミカンを探しているおじさんではなかった。「私のなかの銀河」の1番の歌詞は3行3連の構成をとっているものとして読むことができる。この詩の主役は、貝殻と、銀河と、耳である。

 

 第1連でひとつ目のモチーフである貝殻が登場する。浜辺で誰かが貝を拾い、「貴方」と呼ばれる人のことを思いだす。その回想のなかで語られた、貝=渦巻きという形態面に注目した比喩がつぎのスタンザを導く。

 

 第2連、「それ」の指すものが文法的にはやや読み取りにくいが、読み進めて文脈をとると「渦巻く形」を指しているとわかる。最初に提示された貝のモチーフは、渦巻という形態上の類似を経由してつぎのモチーフである銀河につながる。それと同時に歌詞は、貝が銀河の波音を聴いて見とれてその形になったんだよ、という空想的で感傷的なストーリーを語る。貝~銀河のなめらかなイメージのつながりを、比喩とストーリーという二重の経路で歌っている。

 

 この二重の経路がこの3行3連の詩の骨格だと言える。では、ここに最後の主役である耳はどのように絡むのか。

 

 第3連は唐突な「私の耳も貝の殻」宣言で始まる。第3連はこの歌のサビでもあり、いままでとは違う突き抜けるようなトーンで歌われる。詞においても、この一節は転換点で、この詞が均衡を破って勝負を仕掛けるポイントでもある。これまでは貝殻~銀河というイメージのつながりを、ストーリーと形態の比喩で緩やかに確実につないできたが、ここできゅうに耳=貝だとイメージを飛躍させる。

 

 耳と貝の形は似ていると言えなくもないし、耳に貝を近づけて音を聴くという人口に膾炙した仕草もあるので、耳と貝殻にはぎりぎりのつながりはあるが、逆に言えばそれだけで、先の二連を使って丁寧に歌われた貝殻~銀河のあとに来るとすこし不安定で緊張をはらむ一行になる。サッカーで例えるならまさにここがDFがトップ下に縦パスを入れた瞬間だし、フィギュアスケートで言うならジャンプを踏みきった瞬間である。

 

 このジャンプはどういう着地を迎えるか。「貴方」が再登場し、貝が銀河の声を聴いたように、私の耳もあなたの声が聴きたいのだけどできない、というストーリーに着氷し、貝殻~銀河~耳のイメージの連鎖が完成する。この技がどういう基礎点を与えられる種類のものなのかはわからないが、すくなくとも高いGOE評価を得られると思う。

 

 映画そのものも好きで、ニートの叔父さんによく連れて行ってもらった薄暗いレンタルビデオショップで何度も借りてもらって観た。寄生宇宙人と戦う後半部分よりは、ドラえもんたちが未来のテーマパークでいっぱい羽を伸ばすパートが好きだった。