タイトルの元ネタになった作品を見比べ

 

 「短歌」というジャンルでは珍しく、一般教養と言えるほどとてもたくさんの人が知っている俵万智さんの『サラダ記念日』。俵万智さんにはそのほかにも『チョコレート革命』という歌集があるのですが、ふと思ったのだけど、「チョコレート革命」というワードの「二匹目のどじょうを狙いました」感すごくないですか。

 

 あの俵万智が、つぎの歌集を出版するぞとなった段に、出版社でタイトル担当者が「いや~、なんてたって『サラダ記念日』爆売れしたからな~。次もきっと売れるだろうな~。タイトルでも考えるか。(未命名の『チョコレート革命』をぱらぱらとめくる)お、この「チョコレート革命」というワード、かなり『サラダ記念日』っぽいこと言っているじゃないか。これでいくか」となったのが目に見えるようである。*1

 

第一歌集『サラダ記念日』
「この味がいいね」と君が言ったから7月6日はサラダ記念日

第二歌集『かぜのてのひら』
四万十に光の粒をまきながら川面をなでる風の手のひら

第三歌集『チョコレート革命』
男ではなくて大人の返事する君にチョコレート革命起こす

第四歌集『プーさんの鼻』
生きるとは手をのばすこと幼子の指がプーさんの鼻をつかめり

第五歌集『オレがマリオ』
「オレが今マリオなんだよ」島に来て子はゲーム機に触れなくなりぬ

第六歌集『未来のサイズ』
制服は未来のサイズ入学のどの子もどの子も未来着ている

 というわけで、俵万智さんの全6つの歌集と、そのタイトルの元ネタになった作品を見比べてみた。……いきなりの誤解(『チョコレート革命』は『サラダ記念日』の次ではなく、次の次でした)はあったが、言いたいことはわかってくれたのではないでしょうか。「チョコレート革命」だけ、もとの歌もなんかちょっと弱くない?

 たしかに、悪い歌ではないと思うのだけど、歌集のなかにもっといい作品があるような気がしないですか? やはり、「サラダ記念日」のワード力をかなり意識し、それありきの選出だったのではないか、という気がする。

 

 「男ではなくて大人の返事する」というシチュエーションはわかりやすいが、よく見るモチーフでもあり、言われていること以上の感傷はない。「チョコレート革命」の部分は、文字面は印象的だがリズムとしてはちょっと奇妙だし、それに、バレンタインを簡単に連想させてしまうため、単体で見るとやはり陳腐に映る。*2

 そもそも、1作目で存在しない記念日を作るっていう詩的飛躍でブレイクしたのに、次にやることがバレンタインって、言ってしまえば後退でしょ!

 

 それに比べて『かぜのてのひら』の元ネタは、一首で成り立つ一目でわかる名作だし、『プーさんの鼻』は、「連作のなかでも一番目立つところにあるんだろうな」という主役の顔をしている。

 『オレがマリオ』は前衛性と守旧との連続が調和している歌で、一見奇妙だけどたしかに選ばれる理由があるような説得力が感じられる。『未来のサイズ』は誰でも一度は見聞きしたことのあるありふれた光景を、新しい言葉で斬新に提示している。『サラダ記念日』については、あらためて言うまでもない。

 

 今日は「チョコレート革命」を完全論破してしまった。みなさんも一日一論破、心がけてみてください。人生が変わりますよ。

*1:すみません。今日はずっと勝手に言っているだけです。

*2:本の中の文脈ではまた違うのかもしれないが。