「千年ダイヤ」の思い出

 

 昔持っていたやる夫スレのスレッドで、「千年ダイヤ」というタイトルのショートストーリーを作ったことがある。自分で作ったもののなかでも、そこまで際立って好評というわけではなかったのだが、僕自身はとても気に入っていて、作り終わって見返したときには「生きているうちにやるべきことがひとつ終わった」と思ったくらいだ。

 

2004年2月13日に、ハーバード大学天文学者白色矮星ケンタウルス座V886星の発見を発表した。ケンタウルス座V886星は炭素で構成され、最大で1034カラット(2×1030kg、太陽質量程度) が結晶化してダイヤモンドになっていると考えられた事から、彼らはその星を「ルーシー」と名付けた。

 というエピグラフからお話は始まる。エピグラフ、客観的には恥ずかしいけど主観的にはかっこいいから絶対やっちゃうんですよ俺は。このエピグラフは、行儀のいいことではないが、けど作中に示すと話題の先取りになっちゃうので作中では示していない出典があって、Wikipediaの「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」のページである。

 

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 結婚300周年記念に月旅行をするけれど、それに満足いかず、足を伸ばして外宇宙に飛び出す夫婦のお話であるが、それは外枠のようなもので、内側にはもうひとつべつのお話がある。

 

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 このふたつのお話の関係性やくっつき具合、その周りを飾る小エピソードのそれぞれ*1とちりばめたSF的ガジェット、そしてその全体を流れるしれっとした普通な感情の動きの感じとか、自分で好きな部分をあげていくときりがない。

 

 けどやっぱりひとつ挙げるとすれば、うえに挙げたすべてと事後的に見てみるといい感じに調和している、ゆったりとした作中に流れる時間の感じが一番気に入っている。

 

 最初に語り手の夫婦が旅行する理由を考えて、新婚旅行だとちょっと浮ついて雰囲気に合わないからなにか記念の周年を考えようと思って、なんとなく作業しながら思いついたかなり大きな数字がその後のお話の雰囲気すべてに指針を与えるものとなった。巨大な時間や空間が、思いがけず人々を離れ離れにさせたり、あるいは親密にさせたりすることがあるだろうと考えた。中盤くらいまで作ったら候補のなかからひとつ選んでつけようと思っていたタイトルは、リストになかった「千年ダイヤ」に決まり、千年生きて、思い出をひとつ持っている老人を主人公にした内側のお話が思い浮かんだ。

 

 いまでもたまに読み返して、自分の作ったものを読みかえすと、「ここミスってるな~」「ここはダサいな…」という点がいくつか見つかるものだが、これに関してはどこにもそれがない。全体的にナイーブすぎるというのはあるが、そういうものとしてできているので、これが問題になるのであればそれはそういう作り方というちょっと広い問題である。

 

 自分で気に入っているのも何よりだが、「この作品も未来の俺がいつか思い出して読み直すんだろうな」という、お話のもつタイムスパンにも沿った粋な感想をもらえた時には「伝わっているな」と思いとてもうれしかった。言ってくれたひと、ありがとうね!

*1:一か所単純な物理的誤りがあってそれは後悔しているがさておき。