世界人口の半数近くが、「世界のジュークボックス」と銘打たれたライブ・エイドにチャンネルを合わせた。ロゴのアフリカ大陸のような形のギターは、このイベントの使命を簡明に表現している。だから言葉で説明する必要はない。音楽と同様、言葉を超越しているのだ。
89.ライブ・エイド 1985年
コリン・ソルター著、『世界を変えた100のポスター』という上下巻の本を読んだけど面白かった。世界*1の名ポスター100選を時系列に見ていくもので、ポスターがどんな目的で作られ、どのように人々の目を引き、なぜ歴史に残っていったのかが各ポスター4~5ページくらいで簡潔に紹介される。
図像という意味で印象的なポスターだけでなく、メッセージの重要性とか、世界の歴史の動きとの絡みも選考基準となっている。なのでもっぱらアートワークに興味がある人にはどっちかというと合わない本かもしれない。あとリベラルな関心も強いのでめちゃくちゃ右翼の人にも合わないと思われる。
https://www.meisterdrucke.jp/artist/Edward-Penfield.html
読んでいて印象に残るのはやっぱり戦争のポスター。国が国民を動員するために作ったポスターが、……「時系列に見ていく」というつくりなので何枚も立て続けに来るので、「わあ、戦争だ…」となる。その戦争の時代を包み込むように、合間合間に、ゴージャスなショーとか、人々の手にいきわたることになる画期的な新商品の広告が続く。
「見ていて面白い、歴史的に興味深いけど、所詮広告ではあるな」というデザインのものもあるが、しばらくの間目をそらせなくなるようなものもある。
Daddy, what did you do in the Great War? - Wikipedia
平和になったある日、子供に「パパは戦争で何をしたの?」と問いかけられる。――というメッセージで兵を募ろうとするこのポスターえぐいな…。
ほかにも「女性参政権反対」のポスターや、「喫煙はクール」と呼びかけるポスター、敵国人を醜悪に描いて戦意をあおるポスターなど、「負」のものも手抜かりなく紹介されていて、「ポスター最高!」みたいな感じの本にはなっていません。
Protest Posters From the Vietnam Era - The Atlantic
こちらも文字なしでメッセージを伝えてくる反ベトナム戦争のポスター。銃の向きと飛行機の向きが作る構図の躍動感や、最後に星条旗をひっくり返したことの効果がすごい。
ポスターの概念を広くとらえて、チェゲバラやアインシュタインの有名なアイコンだったり、バンクシーのステンシル落書きなども収録されていて裾野の部分も面白い。
ポスター上に大きく書かれているコピーの翻訳は全部キャプションに書き加えてくれるとありがたかった……、などちょっと問題はあるが、本棚に置いておいてたまにめくるだけでも非常に楽しい本だと思う。ポスターに興味がない人も、読んだら一枚くらいはぐっとくるポスターが見つかるはずですよ。おすすめです。
*2:あと余談で、「走っているものを立ち止まらせないポスターは、役目をはたしていない」というポスター名言を、詩人で劇作家、そしてポスターデザイナーでもあったウラジーミル・マヤコフスキーが言った、みたいなことが前書きと下巻の別の部分で書かれるのだけど、これってあのマヤコフスキーでいいんですよね…? 「たしかに、マヤコフスキーが言いそうなトーンの言葉だ…」と思った。(参考:私的な詞華集 - タイドプールにとり残されて)