小説というのは世のなかにたくさんあって、多様性があるので、そのなかにはふつうの小説とはちょっと違う「ギミック」があるのもけっこうある。これまで実際に手にとって読んだことのあるなかから、「ギミック」があった小説を3つ紹介します。
3つとも本文の内容にかかわるギミックではないので、基本的に内容のネタバレはないですが、ギミック自体はある程度ネタバレするので注意してください。
1冊目はギミックを知っている前提で読む小説。2冊目はギミックを知っていても内容には関係ない、内容を読めばギミックがわかる小説で、ギミックの核心部分はここの紹介では伏せます。3冊目はそもそもふつうに読むだけではギミックがあることにも気づかない(気づかないだろう、というのではなく論理的に気づく可能性がない)、かつギミックを知っていても内容のネタバレにはならない小説で、ここの紹介でもギミックは伏せずにいきます。
一冊目は『帝都最後の恋 占いのための手引書』です。作者はギミックのある小説といえばな人、ミロラド・パヴィチです。
この本は各章のタイトルがタロットカードの名前になっていて、はじめから読んでもいいし、タロットカードを自分で引いて、その順番に読んでもいいですよ、という本になっている。
ジョジョやペルソナでおなじみの「愚者」とか「星」とかあるやつですね。僕は自分のタロットカードを持っているけっこうタロット好きなんです。*1ので、自分で引いた順で読むこともできたのだけど、面倒だったのでふつうに前から読みました。というかこの本、タロットと連動しているということで海外文学界隈では有名な本なのですが、実際にタロットを引いた順に読んだひと0人説はちょっとある。
2冊目が泡坂妻夫さんの、『しあわせの書 迷探偵ヨギ ガンジーの心霊術』である。ページの端だけつまんでこの本をパラパラとめくっていって、適当なところで相手にストップをかけてもらう。そのままページの中身を見ずに相手にこの本を渡す。そのあと、そのページのいちばん最初にある文字を言い当てる。*2
というマジックが、この本を読むとできるようになる*3、というギミックのある小説である。
前にこの本が再版されたタイミングがあって、こんな特徴を持つ本ほかにないし、なんならドラマにもなるみたいなので、これ以降は全員知ってる「ああそれね」となる本になるのか……? と思ったがあまりならなかった。
作者の泡坂妻夫さんもパヴィチさんと同様ギミック本メイカーで、ほかにも面白い本がたくさんある。
https://www.amazon.co.jp/dp/4105901524
十五世紀イタリアに生きたルネサンスの画家と、母を失ったばかりの二十一世紀のイギリスの少女。二人の物語は時空を超えて響き合い、男と女、絵と下絵、事実と虚構の境界をも鮮やかに塗り替えていく。そして再読したとき、物語はまったく別の顔を見せる――。未だかつてない楽しさと驚きに満ちた長篇小説。コスタ賞受賞作。
この本、あらすじに書いてあるようなふたつの物語、それぞれ中編くらいのボリュームがある物語がくっついて一冊の長編小説となっている。これを仮にAとBとすると、A→Bの順になっている本と、B→Aの順になっている本がランダムに世の中に出回っていて、見た目では一切区別がつかないんですよね。
だから、ふつうに1回読んだだけだと、そこにギミックがあることにも気づかないし、繰り返し読んでもこのことについては何もわからない。運よくこの本を2冊入荷している本屋や図書館で*4読み比べたりしても1/2の確率でやはり何もわからない。とんでもないギミックである。
ちなみにそんなギミックがこらされている意図というのは本編を読めば、……わかるわけではないけれどいろいろ仮説を立てたり考察ができるようになっている。興味があったら読んでみて下さいね。ちなみに僕が読んだのは、現在→過去のバージョンでした。