私たちは、受信され、認識され、そして繰り返されうる信号を送るために、互いに向き合う。他方、私たちの周りにはブーン、サラサラ、パチパチ、ウォーという音をたてる世界が広がっている。
(アルフォンソ・リンギス「世界のざわめき」)
タロットカードをはじめて手に取ってから、もう4年くらいが経っている。ひとから趣味を聞かれたときに、タロット占いですと答えると、いろいろな種類の反応が返ってくるし、それに対してTPOに応じてそれぞれの返しをするのだけど、僕がタロットカードに対して思っている印象をちゃんと答えられたことはないような気がする。
こちらが僕が実際に持っているカードである。ちなみにこれは2代目で、初代のカードデッキは、酔っぱらった先輩にタロット・リーディングをしているときに場ゲロをかまされてしまい、とても触れるようなものではなくなってしまった。
不動産を買う、進路を選択する、付き合っている相手と将来を見据えたステップに入るかどうか……、などなど、人生には主体的に下し、その結果を引き受けなければいけない重要な決断がたくさんある。そういった大きな決断をするときには、情報を手に入れ、ありそうなシナリオを予測し、それをいろいろな価値基準から判断し……、などといった長いプロセスをなんども繰り返すのが通例なのだけど、繰り返しているうちに考えの深みにはまって抜け出せなくなることがある。
そういうときにタロットカードはけっこう役に立つ。タロットカードを広げ、交ぜ、その中から10枚(何枚でもいいが、僕は10枚使う)選び、並べ、カードの置かれた位置とカードの意味を読み取る。
タロットカードが提供してくれるのはノイズである。神秘的な力で、未来を言い当てるカードが選ばれている、ということを信じているつもりはない。引くカードはランダムで、そのランダムなカードのランダムな配列に沿って、占われている人はもういちど、自分を悩ませている選択肢とその周りの情報を整理しなおす。カードは中立で、味方ではないがすくなくとも敵ではない。ノイズをどう解釈し、そのなかにどんなシグナルを見出すか。シグナルそのものよりもそれを見出す過程を見つめなおすことに、不思議と実践的な効果がある。…と思っている。
あともうひとつ、ただのノイズにすぎないタロットカードの並びを挟んで向かい合いながら、実際の真剣な問題についていろいろと話をするのはたんに楽しい。これまでけっこうなひととタロットをやってきて、役に立ったり立たなかったり、うまくいったりあまりいかなかったり、やった直後に破局したりあるいは恋が実ったり、いろいろなことがあったけど、言えるのはほんとうにやったときは楽しかったということ。
タロットカード、面白いのでおすすめです。東急ハンズとかで2000円くらいで買えます。