so come home (帰っておいで)

 

"i just want to go home" said the astronaut.
"so come home" said ground control.
‘‘so  come  home’’ said the voice from the stars.

「帰りたい」宇宙飛行士は言った。
「帰っておいで」地上の管制室が答えた。
「帰 っ て お い で」星たちの声が答えた。

 

 『インターネットは言葉をどう変えたか デジタル時代の〈言語〉地図』*1という本を読んでいた。そのなかに、「インターネットでは文字の表記のしかたで語調を表現するのがみられる」という文脈で紹介されていたツイートが良くて、しばらくのあいだ感動していた。

 

 孤独で危険な任務を帯びる宇宙飛行士が、宇宙にいる素朴な実感として「家に帰りたい」と思う。するとそれに優しく、勇気づけるように「帰っておいで」と地上管制官が答える。そして、星たちも答える。ほんとうに帰る場所は私たちのところでしょう、と確信しているかのように。

 星たちの声は全角文字で表現されていて、宇宙にふわっとした声が響いているような感覚を与えている。

 

 『インターネットは言葉をどう変えたか デジタル時代の〈言語〉地図』の作者は引用のあとこのツイートを以下のようにほめている。「わずか140字足らずで、既知のものへの憧れと未知のものへの憧れとのあいだにある葛藤、人間と星屑というわたしたちの二面性について、物語を語っている」

 

 さっき「しばらくのあいだ感動していた」と書いたのはちょっと縮小した表現で、本当はいまも感動しているし、何なら読んだ直後はちょっと泣いていた。

 人間として暮らす家と、そうではないもっと大きな宇宙の物語のひとつの構成物として帰る場所である宇宙空間、このふたつの価値が地球から遠く離れた、管制室の声がぎりぎり届く場所ではほぼおなじ重要度で並べられている。結末はオープンだけど、もしこんなことがあったら宇宙船につながっているひもを切っちゃってもおかしくない。

 でもトーンとしてはユーモアにあふれていて、E.E.カミングスの詩みたいである。

 

 たんに良いだけではなく、人にインスピレーションを吹き込むようなツイートなのが素晴らしいと思う。おなじ内容が映像やイメージ作品でもあることができるし、物語も見えるし、詩にとどまっていても十全に美しいし、音楽にも立体造形物にもなれるだろう。

 実際、検索するとこれを題材にしたファンアートがけっこう見つかった。正直僕もなんらかの場所で、人生で一回これにトリビュートしたいという気持ちにいま満ちあふれている。

 

f:id:kageboushi99m2:20211024215303j:plain

 ちなみにツイートしたjonny sunさんは先ほどの本のなかでは「インターネット上で活躍するユーモア作家」と紹介されていた。その肩書が実質どういうことなのかはよくわからないのだが、ひょっとしたらこの国でいう「ネタツイッタラー」を向こうの国*2ではそう呼ぶのか…?