「宇宙よりも遠い場所」については、すでに多くの議論が尽くされていて、語られるべきところはすべて語られているように思う。
……ただ、6話だけ! 6話だけはもう本当に僕に語らせてほしい。繰り返しになってもいい、語りたい。12はもちろん、他のものもぜんぶ譲りますので。6だけお願いします。
「宇宙よりも遠い場所」は主人公の4人組が南極に行くという話*1であり、6話は南極へ向かう途中の寄港地、シンガポールでの一幕である。
おにぎりの服を着ている三宅日向さんが、パスポートを無くしてしまうのだが、それをなかなか言い出せない。
パスポートがなくなる、というのは致命傷ではないのだが(最悪再発行できる)、シチュエーションにすこし難しさがある。4人は南極へ向かう民間観測チームに、ちょっと無理をして同行している立場であり、多少余裕をもって、観測船が出港するオーストラリアのフリーマントルにつかなければならない。
南極で母親を亡くし、今回の南極行きにいちばんの情熱を持っている小淵沢報瀬(画像手前)は、こういうふうに、物事がうまくいかなくなることにナーバスになるタイプで、……逆にこういうピンチを茶化しがちな三宅日向とかみ合わない。
とはいえ友達どうしで、そしておたがいを尊重してもいる。でもだからこそ、かみ合わなさがたがいの心中に細かい傷をつける。……そんなさまが描かれる。
このふたりのコミュニケーションの描きかたが、ナイーブでハードだった。ただ、とても真摯だった。三宅日向にも小淵沢報瀬にも、それぞれのコミュニケーションと問題解決のスタイルがある。ふたりは歩み寄りを見せるんだけど、それが、どちらかがどちらかのやり方を飲むような形では終わらない。
ジョーク気質で、自分の物事を解決するのは最終的には自分だと思っていて、だからこそ他人に対しては一線を引いて接していて、そのぶんチームの和のために行動することができる三宅日向は、彼女なりの方法で、シンガポールの二人部屋の夜、さっきは気まずい空気になってしまった友達に歩み寄るんだけど……、
小淵沢報瀬は自分とはかけ離れたものの考えかたをする友達の目覚まし時計を止めて、朝早くから空港に来ている。気づいて追いついてきた三宅日向を迎える目がこれである。
けれど彼女は、三宅日向とは違って、物事は真剣にとらえて解決するものだと思っているし、そのぶん人とぶつかって、誤解されることも多いのだけど、かわりに他人のことを自分のこととおなじくらい重要だと考えているし、だれとも分かり合えるのだと信じている。信念とそれを現実にする行動力がある。
そこから先は脚本がとても良い仕事をする。だれの面子もつぶすことなく、幸せな物語の行く末を、自分を貫きつつ、相手のことを考えて、世のなかでもまれな最高のコミュニケーションを成し遂げたふたりに用意する。
心・技・体すべてがそろった、完璧な話ではないでしょうか。
僕は個人的には、三宅日向さんのとる行動すべてを他人だと思うことができず*2、完全に三宅日向さんに感情移入して見てしまい、毎回マーライオンくらい泣いてしまう。「宇宙よりも遠い場所」、意外とがっかりしないので、おすすめですよ。