おすすめweb読み物 開局規定の近代史

 

 「5目並べ」は普通にやると先手が必勝になってしまうので、バランスをとるためにいくつか追加ルールが設けられている。そのうちのひとつが「開局規定」である。ふつうに、1手目を先手が指し、2手目を後手が指し、3手目を先手が…、というのではなく、ちょっと複雑な手続きが決められているのだ。

 

 そしてその「開局規定」はひととおりではなく、それぞれメリットとデメリットがあるいくつかのものが、新考案されたり廃れたり、公式大会で採用されたりされなかったりと、デッドヒートな規格競争状態(?)にあるらしい。

 

2015年のRIF会議では、ロシアのエピファノフ氏が新興国の代表たちに対して「開局規定の歴史はヒロシ(=私)に聞けばわかる」と言っていたことが、私にとって非常に印象的だった。たしかに2003年のRIF会議との共通出席者は私を含め数名で、その中で圧倒的に若い(この時点ではギリギリ20代だった)私をイジった意味もあるのだろうが、開局規定の議論が国際的になってから誰よりも長く・深く携わってきたことを実感した。

開局規定の近代史 第6章 2009年~題数打ちの採用・2017年~四珠交替打ちの採用

 そのことについて、連珠*1棋士の岡部寛さんが記した連作ブログ記事「開局規定の近代史」がとても面白かったので、ぜひ読んで…。

 

20世紀に試みられてきた開局規定は、主にトップ棋士たちによって

①どちらかの対局者が、必勝まではいなかいまでも、有利である

②序盤のバリエーションが狭すぎる

のいずれかの不都合が指摘され、日常的な議論、10年前後のサイクルでの変更が行われてきた。

1111号室:開局規定の近代史 第1章 なぜ連珠に開局規定が必要なのか?

題数打ちもタラニコフルールも、「序盤のバリエーションが狭すぎる」というトップ棋士にとっての2題打ちの問題点を解消しつつ、「規定を覚えること自体が大変である」のような不都合を生じさせない優秀な開局規定である。

1111号室:開局規定の近代史 第2章 2003年世界選手権&RIF会議 舞台裏

2005年の世界選手権でも、併催されたRIF会議で開局規定を変更するための議題は出ていなかったが、議論は明らかに2003年よりも熱を帯びていた。というのも、2題打ちの新たな不都合と、題数打ちではそれが解決できないことが指摘されつつあったのである。新たな不都合とは

③仮先が満局(引き分け)を狙えてしまう

ことであり、具体的には「瑞星55手定石」の登場である。

1111号室:開局規定の近代史 第3章 2005年世界選手権&RIF会議 舞台裏

 個人的にはこの「瑞星55手定石」が登場(Σ(゚Д゚)!! 何か知らんがかっこいい)するところが一番アツかったです。

 

RIF会議における拒否権とは、国連の常任理事国が持つ拒否権に近いもので、発足時の加盟国であり会費も多く支払っている日本・スウェーデン・ロシアの3ヶ国が持っている。スウェーデンとロシアは拒否権を発動したことがなく、日本も開局規定の変更を否決する目的以外で拒否権を発動したことはない。さらに言うと、発動時の日本代表はすべて私なのである。

1111号室:開局規定の近代史 第5章 いよいよ投票・拒否権発動から妥結まで

 そしてゲームのテクニカルな側面だけではなく、ちょこっと政治が発生し、

 

2006年のチーム世界選手権@エストニアで投票が行われる予定になっていたが、地理的に中欧諸国はいくつも参加して五珠交替打ち系統(おそらくタラグチルール)に投票することが予想され、中国・台湾・韓国にもTVであれ電話であれチャットであれなんとか参加してもらって題数打ちに投票してもらわねば…と、頭痛の種は尽きなかった。

1111号室:開局規定の近代史 第4章 2000年代前半の私の考えと、各国の状況

学生時代に連珠の世界で選手として結果を残してきただけでなく、このように拒否権発動を宣言しつつも各国の選手との信頼関係を築いてきた経緯は、就職活動において鉄板エピソードになった(…)この重責がなければもっと良い成績を挙げていたかもしれないが、そもそも連珠を続けていなかった可能性もある。

1111号室:開局規定の近代史 第5章 いよいよ投票・拒否権発動から妥結まで

 実際にかかわってきた人間として、その合間で苦労する様子が、抑え気味ながらも本質的にウィットに富んだ文章で描かれていて、読み物としてとても面白い。

 

 ちょっと途中で言葉の意味を調べたりなんとなく推測する必要はあるかと思いますが、「連珠」についての前提知識はなしでも読める面白い記事ですよ。夜更かしのおともに、ぜひどうぞ。

*1:「開局規定」などのルールを付け加えて、競技として成立させた五目並べのことをこう呼ぶらしい。