という本を読んでいたのだけどめちゃくちゃ面白かった。一般相対性理論の基本を説明したあと、「ブラックホール」「宇宙論」「重力波」という3つのトピックから100年間の研究の歴史を語っていく本である。
一般的な本なのだけど、「方程式が意味しているのはざっくりどういうことなのか」「理論を検証するにはどういった手順が必要なのか」「対立するモデルのうちそれぞれの優れている点はどれなのか」「どのような工夫によって理論をサポートする高精度な観測が可能になるのか」といった、サイエンスっぽいところが詳しく書かれている。
「ざっくりとこういう理解でいいですが、厳密には……」というところも、難しくならない範囲で「ざっくり」と「厳密」のあいだにある差を教えてくれる。
事象の見かけの地平面と実際の地平面は何が違うのかとか、個人的にははじめて知れたのでうれしかった。
1974年のノーベル物理学賞は、パルサー発見の業績に対してヒューイッシュと、電波天文学の開拓者であるライルに与えられた。第一発見者だっただった学生のベル(Bell)には与えられなかったことに対して学界からは強い異議が出た(現在でもノーベル賞をNo-Bellと揶揄する人も多い)。しかし、ベル自身は、当時のインタビューで、ノーベル賞受賞対象外となったことについて特に異議を唱えず、「プロジェクトの成功も失敗も指導教授の責任だから」とコメントしている。
数百人ものメンバーからなるデータ解析グループがきちんと機能しているかどうかをチェックするために、グループのトップが極秘に偽の重力波データを本物のデータにまぎれ込ませておき、それがきちんと候補イベントとして上がってくるかどうかというブラインドテストも実施しているそうだ(空港での麻薬探知犬も、ときどき麻薬を発見してご褒美をもらわないと働かないそうで、私は空港で検査官に「このような理由ですのであなたの荷物に粉を入れさせてください」と頼まれたことがある。犬がきちんと発見したので感心した)。
それに加えて、読み物としても(どこもかしこも面白いわけではないんだけど)かなり面白いんですよ。とくに印象に残ったのが、「No-Bellと揶揄する」逸話と重力波観測体制が機能しているかをチェックするために、たまに上層部が偽の重力派情報をデータに混ぜるという逸話。
ほかにも、読んでて一瞬物理学者ではなく物理学史学者が書いているのかな、と思うくらい丁寧に史料批判がされているところがあったり、……なんというか全方位的に「知」に対して誠実な本だと思った。
2015年――重力波が初観測される直前に書かれている本だというのも、通り越してエモい。知的に興奮したいと思ったときには、特別な理由がない限り読んだほうがいい本だと思います。