この曲のどこが好きかというと第一にまずタイトル。「It's Nice to be Alive」(生きてるっていいな)。もちろん、生きてるというのはかけがえのないことであるという多くの場合通用する一般常識があり、僕もそれには同意しているが、一方で、生きているよりも死んでいるほうがましだという意見の人もたくさんいて、たいていの場合、そのような意見をもつにいたった根拠を否定することはできない。
生きているかそうでないかは気にもかけない前提であるときもあれば、人生をかけた決断であるときもある。……しかし、そのどちらでもないときもあり、この曲で取り上げられている「生きているっていうこと(To be Alive)」はその範疇に属していると思う。Niceというややお気楽な、他人事のような、友達の新しく買ったスマホケースを「いいんじゃない?」と心底興味なく褒めるときにつかうような形容詞を使って、生きているということについて語るとき、それは実存の問題に対する答えにはならない。ただの、一時しのぎの解答保留であるかもしれないけれど、ときには解答保留こそが出せる一番の答えであるときもある。
この曲のなかでは、どこかべつの世界からやってきたお客様が、人生について悩み決断を出そうとする君を解答保留のぬるま湯のなかに引き離そうとする。見た目はきっと魅力的な彼ら彼女らのキラーフレーズ。
We dropped down from some other dimension just to be with you
(ただ君といるためだけに、僕らはどこか別の次元から転がり込んできたんだ)
Well, I'd prefer your enthusiasm while you're here with me
(ま、私は、私とここにいるときのときめいている君のほうが好きだけど)
曲はやわらかなオルタナポップで、同時に鳴っている音の数が多め。サビの部分では音節を長く伸ばしたやわらかな歌いかたになる。これがサビの内容ともよくあっていて、この曲が素晴らしいのはタイトルだけではないということを思い知らせてくれる。
Don't stress, that's dumb
(強い言葉を使うなよ、ばかみたい)
I'm here and it's nice to be alive(私がここにいるし、生きてるって悪くない)
Chill out, it's alright(深呼吸して。大丈夫)
Kiss me, it's nice to be alive(キスして。生きてるってなんかいいね)
この曲を作ったのはオーストラリアのBall Park Musicというバンド。僕は彼らがとても大好きで、とくにこの曲が好きで、いろいろなタイミングで聞くんだけど、忘れられない一曲になったのは今年の夏。
取りたての免許で運転しているとき、すこしでも緊張をほぐそうと、この曲が入っているアルバムを聞きながら道を走っていたら、一時停止無視の車両がわき道から入ってきて僕の運転していた車に衝突し、僕は車ごと大回転しながらガードレールに衝突、エアバッグは開き、車は一発で破壊され、その車内でこの曲は流れ続けた。僕は救急搬送された。
頭に衝撃が来ないようにと完全拘束された状態で救急車に乗せられた僕は、自分の身にいま起きたことがあまり信じられなかったけど、いちおう生きてはいるということに気づき、生きてるって良いな……、と思った。