恐怖を突きつけてくる「○○恐怖症」のページ

 

 昔、大学で、「脳のこの部分にはこの機能があって、ここを事故で失うと人間にはこういう影響がありますよ」というのを学ぶ講義を受けていた。その講義ではいつも、脳の一部分を失った患者の記録映像を見せてくれたのだけど、その際には「ちょっとショッキングな映像かもしれないので、もし僕駄目ですっていうひとは、いったん教室を出てもかまいません」というエクスキューズがつねに入っていた。

 

 ……というのを思い出したのは、たまたまWikipediaでクモ恐怖症というページを見つけたからだった。「クモ恐怖症」というページはこのような文言ではじまる。

 

クモ恐怖症(クモきょうふしょう)とは単一恐怖であり、蜘蛛に対する異常な恐怖感を抱くことを指す。学術的には英名であるアラクノフォビア (Arachnophobia) と呼ばれる事が多い。正式な診断名ではない。なお、このページには上の絵の他には蜘蛛の写真やイラストは掲載されていない。

 なるほど、たしかに、「クモ恐怖症」をわざわざ調べてくるひとは、その本人がクモ恐怖症である可能性がけっこうある。そういうひとに対して「スクロールしたらいきなりクモが出てくるのではないか……」といった恐怖を与えることなく、安心してページを見てもらえる。そんな配慮がなされていることがすごいと思った。

 掲載されている写真も、クモそのものではなくあくまで「クモ恐怖症」を表したイラストとなっていて、さらに、クモそのものはかなりデフォルメされている。

 

 しかし、これがWikipedia「○○恐怖症」ページの、統一された配慮のフォーマットなのかというと、そうでもないみたいだった。ということで今回は、○○そのものがページのなかに出てくる「○○恐怖症」のページをいくつか集めてみた。その恐怖症を持っているひとは、くれぐれもページを開くときは注意してくださいね。

 

トライポフォビア - Wikipedia

 「蓮コラ」というネットミームでも有名な、「集合体恐怖症」のページには、思いっきりハスの写真が置いてあり、訪れた集合体恐怖症のひとを恐怖に陥れる巧妙なトラップとなっている。

 

Blood phobia - Wikipedia

 「血恐怖症」のページにもかなりちゃんとした出血の画像がある。これは血恐怖症をそこまでもたない僕もけっこう「おお…」となったので、トラップ被害者は大変だったのではないか。危険度で言えば屈指の「○○恐怖症」ページだと言えるだろう。

 (2021年2月1日に、「Remove image that could trigger Haemophobia in those who suffer with it」ということで当該画像は削除されている)

 

Gephyrophobia - Wikipedia

 「橋恐怖症」、……僕わりとこれにあてはまるような気がして、けっこう歩道橋とかわたるのを躊躇する。ただ、橋が怖いというのはやっぱり、「橋の上にいる」という全感覚的な体験が引き起こす恐怖であって、さすがに写真を見ただけではなにも感じない。

 「橋恐怖症」のページには橋の写真があり、……ほかにも同様の例としては飛行機恐怖症のページには飛行機の写真が、広場恐怖症の写真には広場の写真があるのだけれど、これらは一概には恐怖を突きつけてくるページといえないだろう。

 

Chromophobia - Wikipedia

 クロモフォビア、……「色恐怖症」のページにはイチゴの写真が置かれていて、「赤」が怖いひとだけが狙い撃ちされている。

 

Technophobia - Wikipedia

 テクノフォビア、……「テクノロジー恐怖症」のページはこれまでのなかでももっとも極悪といって差し支えないだろう。ページの頭にはノートパソコンの画像が掲載されており、それだけでもテクノロジー恐怖症のひとにとっては耐えがたいものだが、……さらにその写真のノートパソコンは、あろうことかWikipediaの「Laptop」のページを表示していて、そのページにはノートパソコンの画像が載っているのである。

 二重、……いや、「テクノフォビア」ページを表示しているノートパソコンやスマートフォンなどのデバイスも含めると、三重にもなる入れ子状に恐怖を喚起する非常に恐ろしいページだ。なにも知らずに検索して訪れたテクノロジー恐怖症のかたはどんな気持ちになるだろうか。配慮の気持ちで、改善が行われることを望んでいる。