だから宇宙は黙ってるんだよ、パパ。~リチャード・パワーズ『惑う星』~

 

だから宇宙は黙ってるんだよ、パパ。

 

リチャード・パワーズ、木原善彦/訳 『惑う星』 | 新潮社

 リチャード・パワーズの最新作、『惑う星』を読みました。読みながら、あ~こういうことを話したいな、こういうところを引用したいななどと思っていたのですが、終盤に行くにつれて小説が上手すぎて内容に触れたいという気持ちがほとんどなくなってしまった。

 デビュー作からずっと、そういう側面が非常に強い作家だと認識していたのですが、とくに比較的小品となっているこの『惑う星』ではさらに際立っていて、作中に登場する要素やモチーフのつなぎ方や出てくる順番、まとめかたが非常に洗練されている。読んで感じて理解していくだけでただただ楽しいんですよ。

 この作品を読むにあたっては、この作品を1ページ目からめくっていって現れる順に情報を処理していくのがいちばんいいと思う。事前情報がないとわからないことは一切ないし、訳注もいいところでがっつり入っている。

 

 上の新潮社のリンクをクリックするとあらすじが出てきますが、たぶん読まないほうがいい。本(単行本ver)にはあとがき部分を除いてあらすじは書いてないので心配なし。でももし文庫化したらちょっと裏を見るのは嫌ですね。

 

 とにかくとにかく、今日言いたいことは、このブログを見てくれている人の中にはいずれ『惑う星』を読む人が何名かいると思うのですけど、あらすじは絶対読まないでね! ってこと。とくに劇的な驚きがあるので~、ということではなく、この作品が意図した順番以外で情報を入れたら損なんですよこれは。

 

 この作品はある有名作品のオマージュみたいなストーリーラインがあって、ここだけは察して読んだほうが面白いのですが、それもしっかり作中でさりげなく前触れ的に触れてくれたりするんですよね。ただ読むだけで自然と察せるようになっている。そして「こういうことだったでしょ」というアフターケアもある*1、それくらい親切なんですよ。その親切には乗るしかない。

 

 読了前提で話したいことはいっぱいあるんですが、でもやっぱり、作品全体の出来とか社会的位置づけとか内容にどれだけ共感できるかとは独立に、リチャード・パワーズの本は要素の組み合いかたが美しくて読んでるだけで幸せな気持ちになる。個人的にはこの人の小説を読むのは人生が与えてくれたもっとも喜ばしいことのひとつなんですよね。

 

 パワーズ入門にはどれがいいか? の答えには諸説あると思いますが『惑う星』もかなりいけてる気がする。知らなかった、名前だけ知ってる、という人もぜひ。読む際は、個人的なお願いとしては絶対にあらすじを先に見ないでくださいね。(べつにみても面白さ半減とかそういうことではないです)

 

ここから先を描いた地図は存在しない。次に起こることのデータもない。

「よくわかった」と私は言った。何もわかっていなかったけれども。

 

*1:334ページ! 個人的には、伝わってるから大丈夫だって! 読者を信じてくれ! とは思った。