昔の詩、タイトルなし

 

ねえ、と
あなたはわたしに言った
「きょう、天使たちのパトロール
すこし、手薄だって
みんなが、うわさしてる

 

きょうは、廃墟には
星を探す天使たちは、いない
うわさが、ほんとうだったら

 

きょうが、チャンスかも
星を探す天使たちをかいくぐって
廃墟まで、行けるとしたら
きょうなら、だいじょうぶかも」

 

ねえ、と
ぼくはきみに言った
きみは教室から
出たことがない
生まれて、一度も
来賓用の、つるりとしたスリッパ
廊下に響かせて
三歩ごとに、脱げそうだ
立てかけてある、モップ
塗りこめられた、散水栓
教室に
出入り口は
ない

 

どうやって、きみは、ここから出るの?
心の中で思ったときには
きみはそとにいる

 

物語がドアを開けた
バッドエンドめざして
キーを叩く速度を上げたんだ

 

天使たちがざわつく
廃墟で
骨董品をひろう天使たちは
〈作者〉に導かれ
眼差しで
みんなを
だいなしにする

 

眼差しは輝きだ
つながって星座になる

 

タイルに入った亀裂に
くさびを打ち込むみたいに

 

あなたは、わたしを
校庭から押しだした

 

夜の王様は、かつては
恐怖だったが
退位した

 

天使たちが
掃討した

 

星座も
毎日、変えられた
暦も、無くなった

 

心は内臓だ
アルコールでダメになる
街灯でダメになる

 

街中を巡る、パイプの
べちゃべちゃの水
ぼくときみの身体を
巡る血液

 

圧力をかけるポンプは
ひとつきり
廃墟から遠いところにあって

 

廃墟に近づくたびに
息は切れそうになる

 

星がまたたいて
輝きをぼくとあなたに送った
物語はハッピーエンドを
餌にして
わたしときみを読み上げた

 

廃墟は積み重なって
あなたの肩まであがってきた
歴史の天使たちが
ごみとくずを集めてる

 

頭は捨てられた
脳は流れでた
髪や爪がひろわれた
大事に
まとめられ
星座に変えられた

 

あれはみんなだ
うわさしていたやつらは
みんな捕まった
翌晩の星座になった
座に埋めこまれて
輝きを
おくらされる

 

物語はぼくたちをおいつめた
天使はわたしを見た
憂いのこもった
目で
あなたの飾りのついた耳じゃなく
形のいい頬じゃなく
ほどけた
くつひもを
かさかさになった
くるぶしを

 

最後の語が
きみの首に撃ちこまれ
血は
血管のかすとともに流れ出た

 

そのあと
わたしはあなたになって
ぼくはきみになる

 

教室の前で
わたしはためらう

 

物語はもう一度繰り返すつもりだ
最初の語から
いくつかを入れ替えて

 

ぼくは死骸じゃない
憂いのこもった眼で見られたくない
座に埋めこまれたりはしない
くすんだ目でここに居たい

 

きみが
窓の外から
ぼくを説得する

 

「ねえ」
あなたは、ここで前回を忘れる
物語がそう読んだから
天使たちはひそむ
街灯も
憂いのこもったナトリウムで
頭上からの
無数の星座たちのかがやきを得て
それは
何回もくりかえし捕まったみんなの
爪垢と髪の毛だ

 

物語がドアを開けて
ぼくは廃墟へ向かう
バッドエンドになりにいく
天使たちの
悲しい瞳が待っている
から