名前をぱっと出されたら「あ~」となる程度には知名度があるけど実際誰も読んでおらず、傑作だということを知られていない知られざる傑作を探す、……というのが今回の集英社還元セールの個人的目標だったのですが、最初に買った1作で簡単に目的を達成してしまった。「貧乏神が!」
ふつうのひとでは及びもつかない莫大な「幸運」を、なぜか生まれつき与えられた桜市子と、人間界の運のバランスを元に戻すため彼女から幸運を引きはがそうとする貧乏神・紅葉のふたりが主人公。パロディもりもりのドタバタギャグエブリデイ・マジックですが、物語を〆るための大きなストーリーラインもひとつ用意されており、それに関係するシリアスパートもある。全16巻で、フルサイズやりきったお話になっています。
傑作と言っていいですが、それ以上に愛されるべきラブリーな作品です! 傑作と言えるのは、作者のやる気・イマジネーションが展開されていつつも、全体としてストライクゾーンに収まる球になっているところでしょうか。
たくさんのキャラが出てきて、アイディアがあり、ひとりひとりにフェチな造形や背景があり、ページをはみ出す世界がある漫画です。……が、同時に、話を説得力を持った形で引いて盛り上げて畳む、というところにも気が使われていて、なんというか読んで損することがない「守り」のポイントも稼げている作品。めちゃくちゃハマるかは人次第だと思いますが、読んだうえで低い評価を付けられることはほとんどないのではないでしょうか。
個人的に刺さった要素としては、良い「バディもの」だったな~というところ。主人公のふたりは「幸福エネルギー」をめぐる利害で対立する関係にあるのですが、和数を重ねるにつれて、それがほかの何物も乗り越えることのできない絆に変わっていく、……というのがバディの王道ながらラブリーに演出されていてすばらしい。
感情振れ幅多めのラッキーお嬢さま×ダウナークール綺麗めの貧乏神というメインカプリングも素晴らしいですが、破天荒ギャグキャラの黒人僧侶を筆頭に、たくさん出てくるどのキャラにも新鮮味のある要素が盛られていて*1見ごたえがあります。個人的に一番好きなのはタマちゃんです。*2
ではなぜ世間ではあんまり注目されていないのか、というと、シンプルにこの作品が刺さる人たちに届いていないんだと思うんですよね。「貧乏神が!」というタイトルもその一例である。読んだ人にとっては、述語を省略した、その時々のニュアンスの「貧乏神が!」というセリフが作中で何度も繰り返されるので、これ以上ない最適なタイトルだと思うのですが、初見の人に訴えかける要素としてはいまいちなのは否めない。
作品の雰囲気が未読者に与える印象も、オタク向けともヤンキー向けともつかない、男性向けとも女性向けともつかない。……実際、個人的な印象としては、悪い意味での「オタク向け」でもないし「ヤンキー向け」でもない、おなじく悪い意味での男性女性どちら向けでもない、どの層でも楽しめるような手触りになっていると思うのですが、こういう良さって、読まないと伝わりにくいですよね……。
傑作なので読んでくれ~! 最後に最終盤のネタバレを貼って終わります。