グルメ漫画の文学的面白さ~河合単 ・久部緑郎「ラーメン発見伝」~ - タイドプールにとり残されて
ラーメンからグルメ漫画へ?~河合単 ・久部緑郎「らーめん才遊記」~ - タイドプールにとり残されて
らーめん再遊記 1 | 久部緑郎 河合 単 | 【試し読みあり】 – 小学館コミック
これまでシリーズを進めてきて、ついに最新タイトルの単行本近刊まで読み終えました。その熱気のなかひとことで感想を言うと、いままで読んだ漫画の中でいちばんの傑作だと思います。
その理由のひとつとして、作品がすごいスピードで進化しているということがあげられると思います。あまりにも純粋な、漫画という以前に「ラーメン」だった1作目のあとに、「グルメ漫画」としてひとつの形を得た2作目。そのあいだには手法的に大きなギャップがあって、ありつつもどちらも方向性の違う傑作であったのですが、3作目はまた全く違うジャンルの漫画になっている。
これまでも登場した人気キャラ「ラーメンハゲ」が燃え尽き症候群にかかるところから話は始まり、前2作に構造上必要だった修業期間をスキップしつつ、1話目からコシの入ったドラマを繰り出してくる。
ディテールの手触りも全然異なっている。おそらく前作までは封印していただろう、サブカルチャーへの言及を作中で行うようになり、ラーメン屋の待ち時間で読むコンビニ漫画から謎のスノッブさをまとうように変化した。作中で行われるラーメンレビューには「万人の形式」などといった、オリジナリティのある抽象的な概念が使われるようになりそれに説得力がある。一方でページの余りでは、芹沢さんが独特の語彙でサウナに入ったりインスタントラーメンを食べたりLUUPをくさしたりと、……いまはやりの「おじさんライフログ漫画」みたいなお遊び要素を付け加えている*1んですね~。
あのすばらしかった作品の続きを読ませてもらえる。……それは、読者にとってはすごくうれしい経験なのですが、それ以上に嬉しいことがあるとすれば、「再遊記」がしたように「続き」を読ませてもらえないこと、なのではないでしょうか。
この「再遊記」をぜひ読んでほしいのは、なんらかのジャンルの「作品」を制作することやそれを鑑賞することに、人生で多くのエネルギーを使ってきた人全員である。そして、ひととおりやり終わって、ひところのまっすぐな情熱を欠いてきたな…、という心境にあるならなおよい。
そういったひとびとに深く、複雑にしみとおるテイストの、「面白い」お話がずっと読めます。ラーメンというか、すべてのジャンルの「作品」についての話なのですよね。この物語が近い将来最後に出す結論を、楽しみに待っています。
*1:これでただでさえ強かったインターネットに今作はさらに強い。