「姫はアツく握る」「赤錆森」「エクソシズムオーバーナイトフィーバー」

 

 インターネットで見かけた「姫はアツく握る」という読切マンガを読んでから、温井雄鶏さんというマンガ家のことしか考えられていない。作家性がすごい。

 このマンガはテニスのシーンから始まるのだけど、主人公はサービスのあとリターンをするのをさぼるので試合が成り立たない。どうやら才能あふれるプレイヤーを主人公にしたオーソドックスなテニス漫画ではないらしいな、と思ったところで家族が夜逃げして兄がいなくなる。

 

 最終的には「自分のしたいことをする」「本音を伝える」「誰かとパートナーシップを取り結ぶ」といったことをテーマにしたいい話になって終わり、( ;∀;)イイハナシダナーとなるのですが、その合間合間に謎の味がある。

 物語は「こういう話なんだろうな~」とある程度読者も予想しながら読んでいくものだと思うんですけど、それがソフトにちょっとずつ裏切られる。つかみきれない奥ゆかしさがあって、それが緊張感につながっていて、面白い。

 

 作者のジャンプ+デビュー作が2021年2月公開の作品「赤錆森」。これはまじで「何これ?」という感じだった。なんですかこれ? 悪口ではなく言葉どおりの意味でまったくわからない。

 わからないんだけどなんかついていったほうがいいんだろうな、という気はする。学校の移動教室以来の感覚である。

 

  

 これはもう田中脊髄剣だろ。2021年に脊髄の武器化というマンガの「答え」へ到達しているのはまさにトップランナーという感じだ。

 

 ジャンプルーキーで発表され、いろいろ賞を取って評価されている作品「エクソシズムオーバーナイトフィーバー」は理解できたのでうれしかった。

 こちらはバディもののBLで、お話自体にそんなにひねったところはないのだけど(でも戦っている姿を見せることで、吊るされた犠牲者が「希望」を感じて延命するといったくだりは良かった)、やっぱりちょっとしたところで予想外のことが描かれているので、気が抜けなくて面白い。

 

 あと絵もなにを描いてもうまいですね。どちらかというとBLが作家としてのバックグラウンドなのかなという雰囲気がする。

 

 ほかにもいくつかの作品が作者のTwitterアカウントで読むことができる。さかのぼった作品ほどストーリーが、作者の想像をそのまま出力したみたいな、ナイーブなものになっているので、翻って「姫はアツく握る」はけっこう練って仕上げてきた勝負作だったのかなあという気がする。

 

 絵柄やモチーフも色々変えて手ごたえを試している途中のよう。たぶん、キャリアを決定づける最初の傑作はこれから*1描かれることになるのでしょう。読むのが楽しみです。

*1:たぶんそう遠くないうちに。