「パスをスルー」と「スルーパス」はまったく別もの

 

 「JavaJavaScript」、「犯罪と不法行為」みたいな、字面や雰囲気が何となく似ていて、たまに「おなじものだろ」と思っている人もいるけど、実はプロパーにとっては厳密に区別された別のものだよ、というようなペアの言葉がサッカーにもあって、そのひとつが「パスをスルー」と「スルーパス」じゃないでしょうか。

 

 Aの選手が出したパスを、味方Bの選手が受け取る……と見せかけて触らずに避けて*1、その後ろにいるCの選手まで流す、というプレーが起きるときがある*2が、これを「パスをスルーする」という。「スルーパス」ではない。

 

 でも「スルーパス」というと、「パスをスルーすること」の別言い回しだったり、「スルーしたあとB→Cに向かっているパス」のことだと思っているひと、けっこういるのではないでしょうか。僕も見始めたころはそうだった…。

 

 「スルーパス」にはまた別の、特別な意味がある。サッカーではだいたい、相手の選手が1列に並んで守備をしているのだけど、その相手選手の並びの隙間を通し(=スルー)て、その奥に走りこんでいる味方の選手にパスを出すこと、これを「スルーパス」という。

 

 スルーパスは試合の展開や対戦チームの戦い方にもよるが、ならすと一試合に5回くらいは出てくる場面である。また、得点チャンスにつながる非常に華のあるプレーなので、発生すると非常に盛り上がる。ハイライトとかにもよく出てくるので、印象に残っている人も多いのではないか。

 

 一方、パスをスルーはそれをしたことで直接チャンスにつながるかというとそういうわけでもない。相手守備者の目線をひきつけたり*3、パス回しを円滑にしたり、というのがメインの効果である。

 スルーパスは、相手の背後を狙うFWもそこにパスを出すMFも、つねに頭のどこかではチャンスがないかスタンバイしているべきほど重要なプレーだが、パスをスルーするかどうかは、自分のところに強いパスが来たとき、反対側にも味方がいればまあ一考してもいい、くらいのプレーである。

 

 見る側にとっても、プレーする側にとっても、重要度にはけっこう差があるのである。

 

 違いを整理するとこのようになる。

  パスをスルー ルーパス
ボールがスルーしていくのは… 味方 相手
方向
チャンス? そうでも チャンス
レア? レア たまにある
狙う? チャンスが来たとき即興 常に頭の片隅に入れる

 

 これで「パスをスルー」と「スルーパス」を混同することはなくなったのではないでしょうか。

 

 ちなみにサッカーにはもう一つ、「フリーキックを直接」と「直接フリーキック」という「似てるけど別もの」ペアワードがあるが、これについては明日また解説したい。

*1:ちなみにBの選手がちょっとでも触ってからCの選手に渡すとこれはまた「フリック」というべつの名前がついたプレーになる。

*2:後述するスルーパスに比べると非常にまれで、勝手な体感だが、7試合に1回くらいしか起きない気がする。

*3:前回のワールドカップではベルギー代表・ルカクのこのプレーが日本にとどめを刺した。