イタリア53年ぶりの優勝おめでとう!! イングランドもよく頑張った!! いい試合でした!!
UEFA欧州選手権「EURO」には、僕が感じたなかでいうと5つのドラマがあった。
ドラマ1 マグワイアのクレバーすぎる起点づくり
キックオフ直後にすぐドラマはあった。自陣でパス回しをして様子をうかがうイングランドだがいきなりマグワイアがバックパスをミスしてイタリアにコーナーキックを与えてしまう。
「決勝戦でやるミスじゃないだろ笑」「さすがコメディの国*1イングランド」と思ったが、もちろん彼らは世界最高のフットボールプレイヤーであり、このプレーもミスではなく緻密に計算された起点づくりのプレーだった。
ふつう国際大会の決勝ともなれば、両チームともに背負うものが大きく、ゲームは守備的に始まる傾向がある。決勝までたどり着いたチームが「負けないこと」をまず一に考えてプレーしているとなると、ゴールを奪うのはとても難しいことである*2。
しかし、あえてコーナーキックを与えれば、イタリアの選手はチャンスと見てゴール前に集結せざるを得ない。その隙を切り返したのがイングランドの1点目だった。
コーナーキックは難なく跳ね返し、こぼれ球をスターリングとメイソン・マウントが収めた。ルーク・ショーが運び、ハリー・ケインがボールを引き取る。そしてそのボールを対角線上遠く離れたトリッピアーにロングパス。トリッピアーは冷静に、相手の注目を引きつけながらルーク・ショーが逆サイドを駆け上がってくるのを待ち、クロス。ルーク・ショーが難しいシュートを決め、EURO決勝戦史上最速のゴールが決まった。
しかしこの美しい先制点が、マグワイアの一本の、……一見ミスに見える深遠なプレーから始まったということは後世に伝え残さないといけないだろう。
ドラマ2 シーソーゲームのシーソーを揺らすのはキエーザ
早めに先制点が決まったことにより、「無理に攻めず試合を長引かせて逃げ切りを狙うイングランドvsとりあえず攻めるしかないイタリア」という試合の構図が決まった。実際にスコアの動きは多くはなかったのだけど、とても見どころのある120分だった。
どちらも集中した守備を続けるなか、イタリアの攻撃のカギとなったのはキエーザだった。キエーザがいる間、イングランドの守備はぎりぎりの読みあいを強いられていたし、逆にキエーザが交代してあとはイタリアは攻め手をほぼ喪失し、試合の流れはイングランドがイタリアをもう一度突き放せるか、というように変わっていたと思う。
ドラマ3 イタリアの攻撃立て直し
前半のイタリアの横幅をメインに使う攻撃は、そもそも5バック+精力的でパワフルなイングランドのディフェンスに弾かれ気味だったけれど、後半頭にインモービレを下げ、インシーニエを偽9番として運用、横幅というよりは縦幅を使ってイングランドCBをつり出す戦い方に変えてからはかなり攻撃が良くなった。
自分たちのスタイルを固定するのではなく、その時々で最善の形を自信をもってやる、という大会期間中に見られたイタリアの強みが再現されて、良かった。
ドラマ4 サッカーの本質にそぐわない選手交代
延長後半終了間際、イングランドのサウスゲート監督はラッシュフォード、サンチョという2名のアタッカーを投入する。どちらも若者ながらヨーロッパのビッグクラブでエースを務めている素晴らしいプレイヤーだ。
けど、ふたりに残された時間はほとんどなかったし、与えられたポジションも攻撃的なものではなかった。「まもなく突入するPK戦でゴールを決めてくれ」というたった1つだけのタスクが与えられた交代選手だった。
サッカーイングランド代表はこれまで、PK戦でとにかく負け続けてきた。PK戦の歴史を並べるだけでコントになるくらいの国である。*3PK戦なんて本来、途中で決着がつかなったトーナメントを、形式的に先に進める儀式のようなものである*4。そんな儀式のために、サッカーの本質を無視するような交代をするのは、勝利の女神を無理やり振り向かせるようななりふり構わない作戦で、……なんかフラグのように見えてしまった。
大会の最初のころからずっとイタリアには好感があったけど、勝ってほしかったのはやっぱりケインがいるイングランドだった。正直、勝利に値するプレーはしていたと思う。
PK戦はすばらしかったが、見どころは、ジョルジーニョの回だったかもしれない。PKは毎回決めているイメージのある彼がこの一番の場面で外すのには、スポーツの深さを感じた。
「欧州選手権」と検索すると、イタリアの形の花火を見ることができる。今大会のイタリアが優勝に値しないと考えるサッカーファンは世界にひとりもいないでしょう。イタリア、おめでとうございます。
*1:Mr. ビーン、サシャ・バロン・コーエンなどを輩出した。
*2:なので、サッカーのこういう大きなトーナメントの決勝戦はあんまりエンタメとして見ごたえのある展開にはならないことが多い。
*3:Mr. ビーン、サシャ・バロン・コーエンなどを輩出した。