忘れずに帰ってくるんだよ。あんたのように簡単には出ていけない人たちのために。~サンドラ・シスネロス『マンゴー通り、ときどきさよなら』~

 

 いつか、わたしだけのホントの友だちをつくるんだ。わたしの秘密をうち明けることのできる友だち。わたしのいう冗談を説明ぬきでわかってくれる友だち。それまでのわたしは赤い風船。錨のついた赤い風船。

 

マンゴー通り、ときどきさよなら 中古本・書籍 | ブックオフ公式オンラインストア

 『マンゴー通り、ときどきさよなら』を読みました。口ずさみたくなるようなタイトルで、みるからに名作の匂いがしますが、実際読んでみたら名作なんてものではなかった。

 詩人としてデビューしたこの作家の文章はいたるところすべて美しく、またそういう作家にありがちな無軌道さはなく、連作短編としてひとつの構造物になっている。そのうえ、一本一本はショートショートくらいの分量なのですが、それぞれ話としてきれいにまとまっている。文学的な美しさと、社会的な視点とが両方とも高いレベルで組み込まれている。理論上完全無欠満点の文学作品と比べたらそれは多少は劣るところはあると思いますが、でも人類の歴史の中で形となって出てくるものとしてはこれ以上を望むのはぜいたくと言っていい水準ではないでしょうか。

 特別な理由がない限り必ず読んだほうがいい作品です。いつか、絶対にね!

 

 この作品について絶賛する以上に言いたいことはあまりないので、個人的な思い出の話なのですが、今日読んだんですけど、5、6年くらい前に一回手にとってはいるんですよね。地元に帰っていたときで、運転免許の試験を受けに那覇に行っているところで、午前中の学科と午後の何か(忘れた)の間の時間を近くの本屋さんでつぶしているときに、たまたま背表紙を見て手に取って、最初の3篇くらいを読んだ記憶がある。

 そのときもひしひしと名作感を感じていたのだが、いろいろな考慮の末にその場では買わなかった。ただ、いつか読むだろうな…という感じはあった。まあ何が言いたいかというとですね、名作は待っていてくれるので、いま僕は「絶対に読んで!」という内容の話をしているのですが、すぐじゃなくていいんですよということである。『マンゴー通り、ときどきさよなら』すごいキャッチーなタイトルなので、記憶のどこかには引っかかっているはず。次に見かけたタイミングかその次か、……いつでもいいので、という話である。信じられないくらいの名作ですので。

 

子どもたちにパンケーキの夕食を食べさせて寝かしつけたあとで、ちいさな紙切れに詩を書きつける。何度も何度も折りたたんで長いあいだ握っているから、そのちいさな紙切れは一〇セント玉のような匂いがする。

忘れずに帰ってくるんだよ。あんたのように簡単には出ていけない人たちのために。

 

U218 マンゴー通り、ときどきさよなら - 白水社

 上には自分がいま読んだバージョンのを乗せましたが、白水Uブックスでも出ているのでこちらのほうが手に取りやすいでしょう。内容は同じだと思われます。