『日韓関係史』(木宮正史)

 

日韓関係史 - 岩波書店

 現代の日韓関係が始まる、その初期条件を作った前史として19世紀末~1945年の日本と韓国の状況について触れつつ、その後の日本と韓国が現代*1にいたるまでお互いどのような外交・社会・経済状況にあって、そのうえでどのように関係を進展・後退させてきたかが教科書的にコンパクトにまとまっていた本でした。非常に面白かった。

 日本と韓国の関係といえば、……まあ僕くらいの世代や趣味だとギリ文化的なものがトップに来ると思うのですが、やはりメディアを通じて入ってくる、歴史の解釈をめぐる激しい対立がいちばんに思い浮かぶやつですよね。

 それに関して、この本を読んで印象に残ったのは、そういう社会や世論のレベルでの「歴史認識」問題は実際の日韓関係にたいして、変数というよりはむしろその反映である、というような書かれかたをしている部分が多かったような気がするということである。

 

 実際には日本と韓国の間には、100余年の間にいろいろ立場の変化はあるものの、だいたい一貫して経済上の関係と安全保障上の関係があって、それを、アメリカや中国、そして北朝鮮といった諸外国の動向に左右されながらも、その経済・安全保障について両国がどうプランしているかに応じて、自国の「反隣国」の世論をあるときは顕在化しないようにつとめたり、逆に政治的資源として利用するために野放し、そしてそれ以上にちょっと盛り上げたりすることがあるのである。

 何が言いたいのかというと、メディア等で前面に出るのは日韓関係のこの気持ちの上での対立関係であることが多いじゃないですか。しかし、外交のリアリズムの上では、世論は道具であったり、大きくても政権を内側から揺さぶりうる一要素として解釈できて、もっと大きな経済社会上の枠組みだったり、安全保障の地図上の各パワーの変化にたいして思ったより小さな位置づけしかないんだろうなということである。

 

 それを踏まえるというかわきまえていれば、煽情的なトピックにたいしてちょっと距離を置いて考えることができて、一般市民の政治参加レベルやさまざまな人と触れ合う生活のなかでは、その置けた距離が役に立つことのほうが多いのかなと。

 

Amazonリンク

日韓関係史 (岩波新書) Kindle

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 というわけでけっこう役に立つし、面白いしとくに*2、コンパクト。内容もふつうに高校教育くらい日本史だとあんまり扱わないところだと思うので、コストあたりの得られる知識も大きそうです。

 しかも今はKindle Unlimitedでは無料配信されている。おすすめです。

 

*1:刊行は2021年で、その直前までがこの本の記述の対象になっている。

*2:双方の歴史認識の違いを「正義論」のふたつの立場と関連づけて、一歩踏み込んだ解釈をしている部分など、どちらかというと現実社会に関連する本よりはしない本のほうをよく読む学生時代を過ごしていた身としては良いなと思った。