「バーテンダー」 作:城アラキ 画:長友健篩

 

バーテンダー 1/城アラキ/長友健篩 | 集英社コミック公式 S-MANGA

 「バーテンダー」というマンガを読んでいました。その名の通り、バーでピシッとした服を着て、丁寧な物腰で、やってくる大人のお客の注文に合わせて、酒をカシャカシャ混ぜて作り提供、またその他のサービスもする職業「バーテンダー」をフィーチャーした作品である。

 基本的には1話完結で、バーにやってきたなにやら事情があるお客さんについての物語と、バーテンダーという職業のこだわりや、お酒についてのうんちくが混ざり合ってそれぞれきれいなショートストーリーになっている。

 

 ただ1話完結なだけではなく、あの時のお客さんの「その後…」が語られる話があったり、雇われバーテンダーからお店をいくつか移って、弟子もできて、最後には自分の店を出す主人公のあゆみといった、縦のお話があったりもして、21巻のシリーズものとしての楽しみもある。1話のほうもロングスパンのほうも、おおきな主張はないものの非常によくできていて読んでいて楽しめた。

 

 一個だけあげるとすると、北海道出張編でピエロのお父さんと会う話! 基本ドライに進んでいくこのマンガにしては珍しく、すごく絵の効果、お話の効果ともに「効かせ」ていて、こういうのが一個入ってくると味が決まるよな…、と思いました。ピエロがストップしたコマが語る情愛がすごくいいんですよ。

 

 ……というのが客観的な感想だが、この作品については個人的な感想も非常にたくさん持った。僕は20代前半のころ、けっこう、……といってもめっちゃ行っている人に比べればそうでも…、なのだけど、バー通いをしていた時期があって、まあそういう場では若い子は珍しいので、いろいろいい気になって、すごく迷惑…、というほどでは(たぶん)ないにしてもいろいろ恥ずかしかったりダサかったりする*1言動をしてきた*2ものである。

 その時の記憶のひとつひとつがね、……カクテルの名前が紹介されたり、バーでありがちな光景がこのマンガの中で描かれたりするたびにね、「あ~、俺もやったな…泣」というふうによみがえってきてかなり、途中で本を置きたくなる回数が多い作品でしたね……。

 

 そんな生来のルーズさをもって生まれた僕であり、だからこそ、この作品で描かれるような*3バーテンダー」というディシプリンに、あこがれるような反発したくなるような気持ちがあって、ひいては世の中のさまざまなことにたいして揺れる態度をとっていたティーンエイジャーのころまで思い出しちゃうような、そんな不安定な気持ちになる読書であった。

 

 個人的な感想はここまで。一般的な話に戻ると、万人におすすめする作品ではないかもですが、洋酒や洋酒についてのうんちくが好きだったり、一話完結のサクッとした悪くない話を暇つぶしに読みたい人の期待にはがっつり応える作品だと思います。おすすめです。

 

*1:端的に言えば金を使わないとか。

*2:そのいくつかはいまでも夢に見るほどだ。

*3:とはいえ現実のバーテンダーもここで描かれたように仕事をしている、というときれいごとになっちゃうんだろうなという気がするが。