二番目に好きな男を愛しなさい~石据カチル「空挺懐古都市」~ ほか

 

アメリア・グレイ『AM/PM

 

AM/PM :アメリア・グレイ,松田 青子|河出書房新社

 その埋め立て道路には浸食の被害があり、墓石業者は余分な石材を所有していた。市政担当者はそこに好機を見た。水際で、墓石は陰気な浜辺をつくりあげた。主に製造ミスの墓石だった。間違って彫られた名前に、ひび割れた表面。石のいくつかは支払いを終える余裕がなかった不幸な故人たちのものだった。故人の家族は、彼らがそう望むのなら、このジメジメとした記念公園を訪れることができた。たいていは望まなかった。

 アメリア・グレイさんという人が書いた『AM/PM』という本を読んでいた。1ページに収まるくらいのごく短い、世界観や登場人物の背景などもなくただ奇妙な光景だけが描かれている小説が120個入っている不思議なフォーマットの本である。上の引用部分も、これだけでひとつのお話である。

 

 全体として試みが成功しているかどうかはあまり明瞭ではないのだが、すくなくともお話のひとつひとつや文章の切れにクローズアップする、ミクロな楽しみかたは十分にできる。120篇もあるので、気に入ったものがひとつやふたつ見つかるはず。本読むのがしんどいな~というひとのリハビリ読書としてもおすすめの一冊なのではないでしょうか。

 

アッサムとローズヒップのイラスト

 pixivをみていたら、GuPのアッサムとローズヒップのイラストが流れてきた。ローズヒップがアッサムに声をかけると、「誰ですか?」となり、「ちょっと~、今朝寝坊したので髪がぼさぼさなだけですよ~」と返す、というだけのイラストなのであるが、これがしみじみと良くて何回も見てしまった。

 

 もともとこういうオフショット二次創作には弱い癖なんですが、GuPのこういうのにはさらにグッときちゃうんですよね。とくにこのふたりは、原作ではほぼまったくオフの描写がないということもあり。

 

 この方は、キャラ×車のポートレート作品も多数描いていて、これも非常によかった。結局GuPのキャラで年齢操作やる時って、どういう車に乗っているのか考えるところからスタートしないといけないんだよな…、という気持ちがある。

 なのでここ数年、車に詳しくなるタイミングをうかがっているんですが、なかなか来ないですね。つかみに行くしかないか。

 

 ふだんイラストはほとんど見ないのでよくわからないのですが、アニメ絵キャラとアニメじゃない背景の合わせかたも工夫があるように見える。

 光を使って背景物の輪郭をあいまいにして、キャラと近いところにある物体はアニメとアニメじゃない絵の中間くらいにして、アニメ絵のキャラとの衝突を減らす、みたいな技があるのでしょうか。

 

二番目に好きな男を愛しなさい~石据カチル「空挺懐古都市」~

空挺懐古都市 4(完) | 書籍 | 小学館

 というマンガを読んでいました。空に浮かぶ都市で、技師として働く主人公の男の子。この都市を空に浮かせている化石燃料、その蒸気を浴びていると、自分がいちばん愛しく思っている人のことを忘れてしまうのである。そんな中、彼はどこかで昔会ったことがあるような気がする女の子に出会って……、というお話。


 非常に面白かったです。全4巻なのですが、完結までにはけっこうな時間がかかっている。そしてそのかかった時間の厚みがわかるような、複雑な構成と思考力、展開の密度がある力作となっています。時間とは関係ないですが、印刷にくわえられている工夫も、この作品につけられている思いの大きさを感じさせて良いですね。

 

 ただいつでもおすすめできるという内容ではあまりないかも。内容は良くも悪くも非常にナイーブ。ティーンエイジャーの気持ちに戻って読むか、あるいは、「物語音楽」的なものを物心つくころに楽しんでた世代が30代くらいになって、「やっぱこういうのがいいんだよな~」と「こういうの」がリバイバルしてくる雰囲気になってからではないとちょっと厳しいかもしれない。

 

 とはいえ、作品そのものがしていることには間違いがない。面白いです。みなさんはどの話が好きでしたか? 僕は当然、浮力研究者のふたりの愛憎模様のところですが……。