イギリスパン、ドイツパン、フランスパンはあれど…

 

 …日本のパン、「ジャぱん」はない。ならば、これから作るしかない。この物語は熱き血潮が宿る太陽の手を持つ少年、東和馬が日本人による日本人の日本人のためのパン、「ジャぱん」を作っていく、

 

 一大抒情詩である。

 

焼きたて!! ジャぱんを観る | Prime Video - アマゾン

 ……というアニメを見ていました。同世代だったら冒頭の語りをよどみなく暗唱できる人も多いのではないでしょうか。*1しかし、原作も含めてたまたま世代だった人以外は履修しないだろうし、これから先生まれてくる下の世代にも履修されることはないであろう作品である。

 

 ただ見てみたら、(パンタジア新人戦終了までは)けっこう面白かったのでけっこういろいろな人が見てもいいのではないかと思いました。いいところはいくつかあるのですが、1点だけ、新人戦のいちばん盛り上がるところの盛り上げかたの巧みさを推したい。

 

 このアニメのいちばんおもしろいところは、パンタジア新人戦編の、もちろん決勝戦、――ではなくその1個前の準決勝である。憎めない相棒役、河内恭介のパンが無残に崩れ、手から零れ落ちていく準決勝第1試合のあと、主人公の東和馬が、(おそらくこの作品を見た人にとって一番印象に残っているであろう)最強のパンを作るんだけど、主人公は終始ずっと悲しい、達観したような表情でパンをこね、発酵させ、焼いていく(そして食べた審査員は死ぬ*2)んですけど、ここが本当にドキドキするんですよね。*3

 

 この最強パンは、ちょっと身もふたもない理由でおいしいので、グルメマンガ的にはそんなに説得力はないのだけど、それを無理やりこれまでのストーリーテリングと演出で違和感なく通しているのすごいと思う。

 あと、このパンに必要なキーアイテム自体はちょっと早めの段階で登場させて、ずっとヒロインに背負わせているというのも、ぽっと出感をなくすための些細だけど重要な工夫だと思った。

 

 個人的に好きなキャラは、昔から変わらず冠茂です。ピンク髪低身長声高め丁寧語ベイビィフェイスあざとかわいハーバード飛び級卒業天才少年で、雪乃に対する面従腹背っぷりがとても良いです。

 あと、口がうまくて人を説得するのが上手*4、目的のためには手段をえらばない、それでいて先輩にはなついていたり、好意を表現するときはストレートだったりしていて、どの要素も大好きです。

 

 ちなみにこのアニメ、モナコカップ編以降はまったく面白くない。打ち切りで終わります。原作も最終的にはすべてが崩壊してめちゃくちゃなまま終わる。なので、廃墟とかが好きな人は最後まで見るのをおすすめします。

*1:そして、「ホウキ星」のイントロが流れてくる。

*2:これはまあ嘘なんですが。

*3:覚悟を決めたつよつよ主人公が敵を神妙にボコるシーン、いつになっても好き。

*4:その結果河内恭介は「ある目的」のためにモナコカップエキシビジョンでは自ら身に小麦粉を塗ってパンとなり、そのまま展示会場で脱糞することになってしまう。(アニメ版では若干描写はマイルドになって脱糞は免れた)