急にマーケターを雇わないでよ~『甲鉄城のカバネリ』~

 

Amazon.co.jp: 甲鉄城のカバネリを観る | Prime Video

 「甲鉄城のカバネリ」というTVアニメと、その続編となるオリジナル劇場版アニメ「甲鉄城のカバネリ 海門決戦」を観た。とても面白いアニメだった。

 

 舞台は江戸時代風なのだけど、蒸気機関の技術はアンバランスに発達していて、街中にはヴェネチアの水路みたいにミニ鉄道が通っている。そんな世界設定のなかで描かれるのは、ゾンビパニックディストピアストーリーである。さっき「街」という言葉を使ったが、この世界で人々が安全に暮らしているのは高い壁に囲まれた「駅」のなかだけであり、壁の外は「カバネ」と呼ばれるゾンビでいっぱいになっている。

 

 カバネに噛まれたらそのひともカバネになってしまうので、街の入り口では注意深い検疫が行われている。もし、噛み跡が見つかったら、……みんな1個ずつ持っている自決用の爆発袋を使って、人に迷惑が掛からないように死ぬのがマナーとされている。偉大な自殺の文化を持つ日本と、感染系のゾンビパニックものってこういうふうに相性がいいのか、と感心した。

 

 ……そういうような世界設定と、主人公やその他周囲の人物の人となりが、流れるようなストーリーのなかでストーリーの面白さを損なうことなく説明されていく1話と2話はものすごい出来である。見るものが飽和していて、最初の部分でつかまないとそこで切られちゃうコンテンツ戦国時代にあるとはいえ、これほど出来のいいストーリー導入部分というのはなかなかないのではないでしょうか。

 

 そのあとも、物語は面白く進んでいく。基本的にはバトルアクションがメインになる作品で、画はとてもきれいだ。

 そのほかにも良い部分はたくさんある。時代劇風でもゾンビ風でもない音楽はかなりかっこよくて映像を素晴らしく引き立てているし、ゾンビ時代劇という世界観にリアリティを与える小道具の描写もすてきだ。

 惣領を務めるお嬢様だったり、その忠実な部下の士だったり、エンジニアの主人公だったり、炊事などを担当する女の子だったり、……甲鉄城という列車(作中では江戸時代風に「駿城」と呼ばれる)に登場する様々な階級の人々が無理ない人数主要キャラとしてピックアップされ、それぞれの立場での活躍が描かれる。ヒーローだけではなく全体のことも描こうという雰囲気があるし、そのうえでそれぞれのキャラクターがとても自然体ながら魅力的に描かれている。

 

 「甲鉄城のカバネリ」はこの世界にあってもなくてもどっちでもいいようなものではなく、しっかりとこの作品がこの世界にあってしかるべきだ、と作品の内容で示せているような、志のあるアニメだったと思う。

 

Amazon.co.jp: 甲鉄城のカバネリ 海門決戦を観る | Prime Video

 3年後に公開された続編「甲鉄城のカバネリ 海門決戦」を除いては。

 

 たぶん、TVアニメ版のセールスがそれほどでもなかったから、なのでしょうか。とつぜんマーケティング的なてこ入れがされて、TVアニメ版で見せた良さを上から殺すようなひどいチューンアップがされていて、見ていて悲しかった。

 物語には見ている人が萌えて楽しむための恋愛要素が導入され、新しく登場するキャラクターにはどこかで見たようなわかりやすいバックストーリーが設定された。主人公が落下するヒロインを助けるシーンは適度より2倍多い回数挿入され、そのような「間違いのない見せ場」を繋ぐための意味しかないプロットはとても味気なかった。

 エンディングのキャラみんなで踊る盆踊りソングは悲惨で、画面のこちら側でただ自分の無力さを呪うしかなかった。