@高校生男子、全員これを読んでくれ。
……まあここで言ったところで男子高校生に届く可能性はほぼ0なのですが、とはいえ、読み終わって、一応言っておきたい気分になりました。詠坂雄二さんというかたが書いた小説、『亡霊ふたり』、面白かったです。
ちょっと世の中を斜めに見ている感じのある男の子が、はつらつで破天荒で、周りを巻き込むタイプの女の子と知り合いになる、という青春ミステリー小説である。女の子の夢は「名探偵」になることで、事件を探し回っては周囲に迷惑をかけたり自分が怪我したりをする。
そんな女の子が、ボディーガード役に見込んだのが主人公の男の子。……なのだが、実はその男の子はとある理由で、「高校在学中に(誰でもいいので)ひとり、人を殺すことを目標にしている」という危険人物だった…。というお話である。
「……バカバカしい」
殺す相手のためにまた違う誰かを殺すだなんて。
名探偵志望の女の子とボディーガードの男の子が、学校周辺の謎を解いていく、……という建付けではじまるのだけれど、メインのストーリーは「なぜ名探偵に?」と「本当に殺しちゃうの?」という、読者が当然抱くふたつのなりゆき上の謎を解き明かしていく形で進んでいく*1。
ここの、「いいバディのように見えるし、実際にコンビで活躍しているけど、本当は片方が片方をいまにも殺してしまいたいと思っている」というshipはけっこうスリリングで、そんな日常の謎パートをもうすこし厚くやって最後同様にしめる、みたいな1クールのアニメorドラマは絶対に見たいので作ってほしい。
まあどうもいまの年になると、関係性萌えの視点で見てしまうのだが、実際これは思春期の思い悩む時期に読むと、作品のテーマをストレートに受け取ることができる上質のジュブナイルになっているとも思う。
「名探偵志望の女の子と人を殺したい男の子」、ティーンエイジャーの欲望充足のために、めちゃくちゃシャバい筋書きや雰囲気にもなりうる設定だけど、そうはせず、そういう人が見どころのある人物として実際にいたらどうなるのだろう、ということを考えて、地に足が最大限つくように描かれている。
物語に入れ込むことでどうしても大きくなってしまう読者の欲望の世界を、うまく現実と折り合いをつける方向へ導いてくれる。そういった「オタクの緩和薬」みたいな効能を持った小説であるとも思う。
個人的に好きだったのは、終盤でとある人物が無免許運転をするシーン。この人物、作中だとちょっと尊敬されづらい立ち位置にいるのだけど、そういったキャラにもちょっとした「やるじゃん」ポイントを作るところ。……お話のキャラひとりひとりに愛情や責任感を持って、作者が接しているタイプの作品で、いいなあと思いました。
これを高校時代に読んでいたら、……実際に高校時代に読んだ『赤朽葉家の伝説』とか『さよなら妖精』みたいな個人史立ち位置にある作品になったんだろうな、と思う。そして自分に引き付けると忘れちゃいけないのが、ふたりの関係性が、マイルドな『GOTH』といってもいいところもなんだよな。
*1:というわけで立派なメタミステリ作品でもある。