いい恋愛をしているときには世界がキラキラ光って見えるあの感じ~眉月じゅん「恋は雨上がりのように」~

 

恋は雨上がりのように 1 | 眉月じゅん | 【試し読みあり】 – 小学館コミック

 「恋は雨上がりのように」を読みました。言葉少なくクールな雰囲気の17歳高校生橘あきらが、バイト先の45歳円形脱毛症で喫煙者、バツイチ子持ちのさえない「店長」に恋をする、……というラブストーリーである。

 

 まずは本題はいったん置いておいて、その他の部分についての感想なのですが、とても面白かったです。マンガという形式を使っての表現が非常に上手い作品で、なにげないセリフ回しとか、登場人物の表情ひとつ、しぐさひとつ、ストーリーのちょっとしたあやなど、センスがあって作りこまれていて非常に読みでがある。ページをめくっていて美しいんですよ。いい恋愛をしているときには世界がキラキラ光って見えるあの感じ、が紙の上に再現されている。

 作者にこれだけ使いまわしのきく能力があったらどんな題材を書いても基本的には同じくらい面白くなるだろう…、という感じである。

 

 では、こんな全員から応援されるとは限らない題材を選んだことの是非という本題なのですが、これが難しくて初見ではなんとも言えなかった。ストーリーは(終結部を除き)一般的なラブストーリーで、JK×冴えない中年でなきゃならないといったギミックがあるようなものでもない。恋愛の規範に関する論争的なねらいがあるわけでもない。

 ……じゃあただ「癖」なんだろうなという気もしたが、それにしてはお話は抑制的、というか激渋である。(映画版ではちょっと渋さを和らげる方向にテコ入れをしたらしい)もちろんこの題材で欲望充足的な作品となっても困るのだが、でもここまで渋いなら最初からストレートのほうが商業的にも良かったんじゃないかという気もしないでもない。

 

 ただストーリー内部で言えば、ふたりの年齢差が、ラブコメあるあるの「何でそこまで言ってるのにつきあってないねん」現象に対する技ありの回答になっていたり、また「恋愛を素直に応援するわけにもいかないけど登場人物には幸せになってほしい…」という宙づりの状態に読者を置く効果もあって、ポジティブな効果もあるんだけど、同時にどう作中で破綻なくかつ読者の共感も得られる結末に持っていくかという筋書き上の大きな負担も背負っていて、プラスマイナスで言えばマイナスのほうが若干だけ大きかったのではないかという第一印象である。

 

 サイドキャラでほかの禁断の恋愛を提示したりするところなど、話づくりの苦労をかなり感じたし、最終的に「走ること」「書くこと」と絡めて出した結論も、正直恋愛部分を描いているときの輝きと比べてそちら側の価値はだいぶ通りいっぺんの描写なので、説得力を出せたとは言えてないと思うのですよね。

 

 もちろんそもそもが難題で、そこにまっすぐ挑んでいるところはすがすがしい作品だとは思った。根本的な問題を完全に乗り切ったとは言えないものの、でもそれとは全然関係ない部分で作者が本領を発揮してすごく面白い作品、と言って大丈夫なのではないでしょうか。

 たぶん読んで悪い気持ちになる人はいないと思うので、設定で敬遠していた人も呼んで大丈夫だと思います。むしろ激渋なので「癖」を共有している人のほうがきついかもしれない。なんにせよ、誰でも読んだほうがいいレベルの傑作だと思います。おすすめ🤣

 

 映像化しやすい作品だと思うけどそのままだけじゃなくて、『センセイの鞄』みたいなテイストで、25年後版スピンオフやらないかな。片方だけが大人のlose-loseな恋愛はもうあまりみてられないので…。