なぜオタクが深夜にアニメを見ていたのかわかった~「Angel Beats!」(2010)~

 

 僕はけっこう幼少期をインターネットをしながら過ごしたタイプの人間なのだが、そのときにずっと不思議に思っていたことがある。オタクが深夜アニメを熱心に見ていて、隙あらばその話題で話をする、というのがそれ。ほかにもっと楽しいことがいっぱいあるはずなのに、なぜわざわざ深夜にやっているアニメなのか。

 

Angel Beats! | BS11(イレブン)|全番組が無料放送

 最近、「Angel Beats!」というアニメを見たんですが、それでやっと謎が解けて気持ち良かった。たしかに、これが深夜に毎週やってたらそれは観るだろうな…、となりました。

 

 ここから「Angel Beats!」の感想をいうのですが、このアニメ、事前情報がなければないほど面白く観れるアニメだと思うので、欲を言えば全員、現実的なところではこれからちょっとでも見る予定がある人は、ここから先は読まないでくださいね。

 

 

Angel Beats! | アニメーション制作会社 P.A.WORKS 公式HP

 良くないな…と思う部分が1個もなく*1、ほとんどいたるところが良かった。まず音がいいですよね。第一話から音を利用した演出が多用されるのだけど、これがどれもかっこいい。とくにCMに行くときに入るAの音1個がまじでかっこよくて、しばらくAを聞くたびにこのアニメを思い出すだろう……。

 主題歌や挿入歌も良くて、このアニメには曲が音楽として良くてその説得力を持ってないと厳しい場面も多々あるのだが、そこもちゃんといい曲があってそれで通せているのがすごい。

 

 クレジットみてびっくりしたんだけど作曲が「麻枝准」で、この人はたしかこの作品のメインライターですよね。多才なんですねえ。

 

 ストーリーも素晴らしい。このお話には、どうやって進んでいくのかよくわからない不思議さがあって、毎回毎回先が気になる。それに展開の手数も多くて、毎回毎回、始まったときと終わったときではストーリーの体勢が大きく変わっているんですよ。そのうえで1クール内でのメリハリもつけ、また1話単位でも緊張と緩和のバランスが良い。

 

 画面を使った演出も良くて、映像をじっと見ていても退屈ではない。世界観*2もキャラクターもいい。饒舌に語らせる部分と流して想像に任せる部分の使い分けもいい。テキストのセンスがいい*3。あとギャグも面白い。

 それに、ただいろんな部分が良くて、いいところの詰め合わせのようになっているだけではなく、作品としての芯の志があって、それが伝わるようにそれぞれの良さが適切に配置されてもいる。これはすごいことだ。

 

 こんな良いものをティーンエイジャーのときに見ていたら、多分、学校のつらい時間を耐え抜くための心のよりどころになっていただろう。授業時間中、自分も「戦線」のメンバーになったつもりで、授業に静かな反抗をしていただろうし、クラスメイトになにか言われたときはNPCだと思ってなんとかやり過ごそうと頑張ったであろう。……そしてシャバには戻れなかった気がする。それぐらいの、作品世界の魅力に釣り合うアクチュアリティがあるんですよね。

 

 そのうえで、作品の芯の部分が人生にたいしてポジティブなのも感動的だった。心をつかんでくるアニメだし、これに心をつかまれて損することはないと思うんですよね。人生のハードプロブレムを題材にして、それにしっかり筋の通った解答を出している作品なので、偉い。

 俺も見終わったあとは健康保険証を取り出して、未記入だった裏面に丸をつけました……。それくらいポジティブな説得力があるアニメだと思う。

 

 そしておなじくらい偉いのが、これ、たしかいわゆる「Key作品」なので、原作はえっちなゲームだと思うのですが、アニメにするにあたって、読者の興味をつなぐためのポルノ描写やロマンス描写をほとんど一切していない。これも大きいと思うんですよ。たんに僕が見て面白かった、というだけではなく、普遍的な価値のある傑作である。

 

 そして恐ろしいのが、「Key作品」のなかでもこれってそんな1番とか2番の知名度がある作品ではない気がすること。ひょっとして、「CLANNAD」とか「AIR」ってこれよりもっと面白いんですか? だとしたら個人的に大ごととなります。

 

 原作も絶対やる。各キャラごとに過去を掘り下げるパートがあって、それを何周もしてようやく真のエンドにたどり着けるんでしょ。アニメも良くまとまっていたけれど、絶対これは周回前提ゲームの複線的なしかたで体験するのが本来の享受だと思う。SwitchとかSteamに移植されてるのかな……。まあされてなくてもハードをなんとか揃えます。

 

 このブログがワールドカップのときみたいに、「Angel Beats!」一色になっても気にしないでください。それくらいの傑作なので。

*1:最後の最後の展開だけちょっと疑問符をつける余地がある、あれが最善ではないかもしれないけれど、でももうあの終わりかたに文句つけるのは野暮ですよね。

*2:宝石の国など好きだったら刺さる設定だと思います。

*3:お話には陳腐な部分もあるのだが、テキストや演出の良さ、というか、陳腐な展開でもまるで初めて思いついたみたいにしっかり、適当じゃなく伝えているのであまり陳腐さを感じない。陳腐さのなにが悪いって、作り手側が陳腐なことをやっているって一番わかっているから「まあこんあもんだろ」と手を抜いてしまうことなんだよな…、と再確認しました。