星新一でいちばん記憶に残っている短編

 

 みなさんは読んだことがありますか、星新一

 

 ドラえもんとか好きだった子供がつぎに読むSFとしても良し、やんちゃ目な子供が学校の読書時間でしゃーなしで読む本としても良し、ほかのところから読書の道に入門して後々星新一を知るけど「初心者向けの本だから私はいいや」となってプライド上避けても良し、一周回って「すべてのSFのアイディアは結局ここにあるんだよな…」みたいな感じで最大限持ち上げて好きマウントを取りにいっても良し。……とにかく、いろんなルートからアタックが可能なのが良いですよね。

 

 僕も星新一ショートショートは多少読んだことがある。そしてその中でももっとも強く印象に残って、いまでもたまにストーリーを思い出しては、「あれは本当に衝撃だったな…」と思うお話がある。

 

 ちょっといろいろうろ覚えで、タイトルも覚えていないんですが、だいたいこういう話である。(うろ覚えですがオチまで全部言うので逃げて!)

 

「太陽の塔」オフィシャルサイト(大阪府日本万国博覧会記念公園事務所)

 ちょっと僕の中では「太陽の塔」のビジュアルイメージなんですけど、こういうなんらかのモニュメントがお話に登場する。このモニュメントは、ある芸術家が国連かなんかに「人類のための建造物を作ってくれ」と依頼されて作るのですが、実際には人類のためどころかほとんどたいした機能はなくて、付属のボタンを押すとちょっと腕が動いて、また元に戻る、……とそれだけのちょっとした機械が入っているだけの構造物だったんですよね。

 

 まあおおらかな時代だったのでそれでも許されて、モニュメントは広場に飾られて、子供とか暇をした人とかが自由にボタンを押していく。時間がたつごとに次第に飽きられていくけど、それでもたまに誰かがなんとなくボタンを押し、モニュメントはそのたびにちょっと動いて止まる。それが繰り返される。

 

 モニュメントはかなり頑丈に作られていて、長く時間がたっても壊れることなく、ボタンが押されたら、動いて止まることをずっと続けていた。

 

 そしてある日致命的な戦争が起きて人類は死滅し、ボタンを押す人がいなくなる。その後も、ふらふらととんでいた鳥とか、風に飛んできた瓦礫とかが偶然モニュメントのボタンに当たって、

 

 腕を動かして、戻す。……ということはあったのだけど。

 

 ついにあるとき「50年以上連続してボタンが押されなかった」とモニュメントの内部の機構が認識し、それをトリガーに、あらかじめそうプログラムされていたのに従って、モニュメントからは人類の滅亡を悼むためのもの悲しいレクイエムが流れる。

 

 ……それがオチ、な話なんですがこれがもう子供のころ最初に読んだときからずっと好きなんですよね。いまは多少改善されたのですが、子供のころはとにかく生き物より物のほうが好きで、物が主人公のお話というのが完全に琴線に触れた。*1

 

 そしてロマンチック。人類という友人がまだそこにいるかどうかを確かめるためだけに作られたモニュメントがあって、それが人類の最後をみとるわけです。俺はこういうのによわい。

 終わったあとの展開にも思いをいたしてしまうというか。役目を終えた後のこのモニュメントが、やっと自由を自分に許して、動き出して、宇宙を旅する話とか見てみたくないですか。

 

 それ以外にも、「モニュメントの謎」の引っ張りかた、そしてオチの鮮やかさも見事で隙のないショートショートだった。

 

 「星新一でいちばん記憶に残っている短編」の話は意外と個人の趣味嗜好が反映されていて面白いのでおすすめですよ。ぜひ、みなさんの星新一フェイバリットを、……どこかで教えてくれたらうれしいです!

 

*1:なのでほかにも「ドラえもん」とか「きかんしゃトーマス」とか好きだった。