時計にさす油~角野栄子『魔女の宅急便』~

 

 『魔女の宅急便』という小説を読んでいたが面白かった。人間の行動とか気持ちが主題になっていて、出来事がそれを動かしたり補佐したり説得力を与えるように配置されているお話もいいのだけど、そうではなくて人間はちょっと脇役で、物語の中で起きるちょっと粋な出来事たちが主役として生き生きしているお話はやっぱりいいですね。

 『魔女の宅急便』では、木の上で揺れる鈴や、楽器が空を飛んで運ばれるときに鳴ること、キキが空から持つロープにかけられた洗濯物とか、……の「良い出来事」がとてもメインを張っていて読んでいて気持ちよかった。

 

 物語を読むことは、人間と関わることだったり都合のいい人間だけと関わることと似ていたりする時もあるのだが、ときにはシンプルに「出来事を目の当たりにする」に似ていることもあって、人との付き合いに疲れているときに*1こっちのほうの物語に出会えるとなんだか癒されますね。

 

「魔女ってね、時計にさす油みたいなものよ。いてくれると町がいきいきするわ」

 ちょっと人間寄りのシーンになってしまうのだけど、「町」にやってきて魔女への偏見だったり無関心にやられて寝込んじゃうキキのところ、アクチュアリティを感じてなんかよかった。理解者ができて、さあ町で暮らすぞー!となった次のページで鬱になっているの物語のリズムとして意外で良いと思う。

 

 魔女をあたりまえに受け入れてくれている故郷のひとたちにとっては、魔女は「時計にさす油」のようなものらしい。この言いかたもとてもいいなあと思った。*2

 いると町がいきいきする、「時計にさす油」のような人たち。……現実だとだれになるんですかね。

 

 やっぱ赤いレオタードでおまるにまたがる人とかになるのかな。

 

 僕は諸事情*3ジブリの映画版を見たことがないのだけど、唯一知っていたニシンのパイの話は出てこなかった。

 魔女キキの1年間を複数のショートストーリーで描いていく構成の本なのだけど、1曲だけ知ってるミュージシャンのライブに行って、(おーどれもなかなかいい曲だけど、あの曲まだかな…)となりながらイントロを待ってる、……みたいな感じの経験をした読書でした。

 

 次の巻にあるのか、それともジブリオリジナルの展開なのか……。

*1:私情を挟んですいません。

*2:そのあと実際に「時計を回す」シーンがあるという構成も心憎いですね。

*3:ご提案:カノンでウミガメのスープ - タイドプールにとり残されて