「ご飯は私を裏切らない」

 

 面白かった。

 

ã飯ã¯ç§ãè£åããªã

 

ご飯を食べて、思考を止めて、現実から目を背けよう――。

29歳、中卒、恋人いない歴イコール年齢。バイト以外の職歴もなく、短期バイトを転々とする日々。私は、現実から目を背け、思考を止めるためにご飯を食べる。私は人の期待をすぐ裏切るけれど、ご飯はこんな私の期待を裏切らずにいつも美味しい。奇才の新鋭・heisokuが贈る奇妙なグルメ物語が短期集中連載で登場。

 

 素晴らしかった。グルメ漫画と底辺主人公(けどビジュアルは漫画的にかわいい)という、無難なパーツを組み合わせたような作品。ツイッターに流れてきたのを見て、なんとなく読んでみようとは思ったけど、読む前からこんな感じだろうと内容のあたりをつけてはいた。

 

f:id:kageboushi99m2:20190813232412p:plain

 つけていたあたりは早々に裏切られた。無難なパーツの組み合わせとして読み流すには作家性が強すぎる。絵もそうなんだけど、特筆すべきは文章で、過剰な一人称の語りがいちいち面白い。オフェンシブではない、というところが際立ついい意味での自虐的な文章が笑いを誘う。本当に文章が面白い。

 

f:id:kageboushi99m2:20190813232834p:plain

 このコマはすごくて、後ろのM字型の梁を中心とした構図を用いた右から左への視線の誘導が完璧だし、その上に乗っかっているナレーションは普通ならちょっと文字数過剰なんだけど、おかげで自然に読むことができる。途中に入る「私はロボット!!」も大きい工夫だと思う。

 

f:id:kageboushi99m2:20190813233359p:plain

 こういうふうな労働の風景のディテールの説得力がすごい。それに思考力がある。グルメ漫画といっても、主人公の収入を考えると当然、めちゃくちゃいい料理や食材が登場するわけでもなく、労働の合間や終わりに食べるちょっとだけ贅沢な食事の描写が主になっている。そんな題材の漫画をスペシャルなものに仕上げているのは、このような作家的な能力だと思う。

 

f:id:kageboushi99m2:20190813233924p:plain

 この辺はわかりすぎて笑いながらうなずいてしまった。僕もいまのところバイトを3つくらい掛け持ちしているが(まだあまり拘束時間が多くないのでもう2個くらいは増やせそう、という違いはある)、暇なときは求人情報を見てしまう。飲みながら求人を見ていることも多い。なぜかというと楽しいから。まじで楽しいんですよね求人情報をひたすら眺めるの。

 

 ニコニコ静画では作者さん(heisoku、ひいひつさん)の、もっとストーリー性のあるほかの作品を見ることもできる。やっぱり特別な作家性があって、物語の出来不出来にかかわらず作品として一定の見どころを備えているのが美しい。

 

 ちなみにヤングエースUPの掲載ページで、この漫画は「ジャンル:グルメ、料理 / ホラー、怪奇 / ギャグ、コメディ」と表記されているけれど混乱しすぎではないか。圧倒的な作家性の前に、マニュアル的なジャンル区分が意味をなさないということを確認できる事例でしょうね。