すぐに奥付にたどり着く~ 山本英夫「のぞき屋」~

 

 

 山本英夫さんという作家の描いた漫画「のぞき屋」を読みました。……正確に言うと、「のぞき屋」という1巻完結の作品と、そのコンセプトを引き継いでシリーズ化した「新のぞき屋」11巻を読みました。

 この枠組みが非常にわかりづらく、最初「のぞき屋」→「新のぞき屋」2巻の順に読んでいって、なるほど、2巻目ではいきなりなにやら事件の途中から始まる、いわゆる「倒叙法」を使って描かれているんですね、しかもそれなのに登場人物や話の流れが、ちょっと頑張ればわかるくらいには無理なく説明されていて……、みたいな感想ブログで使う文章を頭の中で考えながら読んでいたのだが僕が馬鹿なだけでふつうに「新のぞき屋」1巻読んだら最初から全部描いてありました。

 

のぞき屋 1巻 amazon

 ビジュアルで区別するのがいいかと思います。こちらが、1巻完結のほうの「のぞき屋」で、これはこれで面白いが、リーダビリティは「新」のほうがあるので、「新」から読んだほうがいい気がする。

 

新のぞき屋1巻 amazon

 こちらが「新」の1巻。コンセプト指向が強かったバニラと違い、青年漫画的な主人公とゆかいな探偵団の仲間たち、そして魅力的なヒロインが追加されていてフルサイズの連載漫画になっている。

 

 盗聴や尾行などの手段をつかって、依頼人の求めに応じて人をのぞくことが仕事の「のぞき屋」たちが、さまざまな事件や人間模様を覗いていく。ストーリーはアダルトで、子供が読むようなものではないが、子供の頃に読んだら大きな財産になるだろう。世の中には自意識を増長させるやすらぎ漫画と、逆にへし折ることで上手く社会の中になじませてくれるようなイニシエーション漫画があって、これは後者だからですね。

 

 では大人がこの作品を読んで得られるものはなにかというと、それは圧倒的な、ストーリーに引き込まれる楽しい時間ではないでしょうか。事件には依頼人がいて、のぞかれる対象がいて、ふたりとも何とも言えない、いや~な事情を抱えているのですが、それに加えて「のぞき屋」たちの知らない第三者が話にかかわってくるんですよね。

 その第三者の動きは、のぞき屋たちの表のストーリー進行の中に、インサートされた意味深なシーンで表現される。コマは軽快に進んでいくけれど、誰が敵で誰が味方であいつがなにをしようとしているのかクライマックスまでわからない。気づけば奥付にたどり着いてしまっているような上質のサスペンスを味わうことができます。それぞれのストーリーが、まじで、面白い!

 

 それに加えて、主人公とヒロインの奇妙な関係性と、「のぞく」ということを題材にした弁証法的な考察という、連作を貫く縦の主題もある*1。これで11巻はあっという間に読めてしまうし、繰り返したくなる。

 

 完全に大傑作ですし、Amazonではけっこうお得に読めますよ。迷ったら、読んでな!!

*1:とはいえあるだけで未消化ではある。最終巻の最後の一コマをあっけない手抜きだと思う人もいるでしょう。