自分のTwitterユーモアを掘り返した

 

 昔はとても好きで、するたびに「そういうことをするタイプの人間だ」と周りからの評価が下がっていくのもとくに気にせず、ネタツイートをよくしていた。そのあと心境の変化が起こり*1、あんまりネタツイートはしなくなった。

 

 そして最近は心身が不調で、自分のツイート欄を下にスクロールしていくことくらいしか休日できることがなくなっている。その過程でこれまでしてきたユーモアツイートも目に入ったのだけど、ちょっと笑っちゃうものもけっこうあった。

 

 もうそのときの心境思い出せないけどぜったい一瞬も思ってなくてちゃんと考えてツイートしたよなこれたぶん…。小児科医が「わかすぎ!」と自分の顧客に向かって思っているのはまぬけすぎるし、その状況を思いつくまでにちょっとラグがあるような言い回しで、いいユーモアだと思った。

 

 怒りが他人への異様な執着心に結実するタイプのホラー。

 

 そういえばいま仕事辞めて無職なのでひさびさにこの状態になっている。社会の正常な流れからはずれて打ちのめされて自分に自信を失っているとき、ふとこのコマがあたまに思い浮かぶんだよな…。

 

 その自虐込みのボケなのはわかるけどそれでも、なんか上から目線なのはよくないな。

 

 これは僕のユーモアじゃないのでちょっと趣旨には合わないのだけど、個人的に勝手にいまでもずっとじわじわ来ているので広い意味でのTwitterユーモアということにしていいですか。

 最近も本や映画で物語の展開にきつくなったときとかに「これはハリネズミだ…」と思っちゃったし、人生がきついときにも「人生じゃない…、ハリネズミだ…」と思っちゃう。*2

*1:フォロワー全員からリムーブされてしまいしても見る人がいなくなったというのももうひとつの理由としてある。

*2:そのあとじぶんでくすっとできるのでここまでくれば(盗用だけど)僕のユーモアでもいいでしょ。

「長門有希の100冊」のうち何冊読んでいるのか?

 

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 「涼宮ハルヒの憂鬱」のTVアニメバージョンをぜんぶ観た。有識者の友人によると映画の「消失」までちゃんと見たほうがいい、とのことでしたが、とりあえず「まあ今すぐはいいかな」という気持ちになっている。

 最初の6話(涼宮ハルヒの憂鬱I~VI)*1は文句なく面白かったし、全体的に映像として面白い部分が多くあって印象はとてもいいのだけど、アニメ製作チームが工夫しているところと、原作が物語として目指しているところが両方別にありそうな感じがして、そのあいだにシナジーがあまりなさそうだな…、というところはちょっと思った。

 

 さて、作中で印象的に登場する読書キャラ、長門有希さんがおすすめの本を100冊選んだ「長門有希の100冊」という企画が昔あったらしい。どの程度長門有希と趣味がかぶっているのか、ここで確認してみたい。

 

4 『双頭の悪魔』有栖川有栖
5 『魍魎の匣京極夏彦
11 『世界SF全集12』ロバート・A・ハインライン(0.5点)
25 『十角館の殺人綾辻行人
28 『暗号解読 ロゼッタストーンから量子暗号まで』サイモン・シン
31 『有限と微小のパン森博嗣
34 『ダンス・ダンス・ダンス村上春樹

 かぶっていたのはこの6.5冊でした。『世界SF全集12』はハインラインの『人形つかい』と『夏への扉』が収録されているらしく、後者は読んだことあるので0.5冊換算です。

 ……というか、なんというかめっちゃ選んだ人のパーソナリティ*2が見える、ちょっと人間臭いリストだったのが面白かった。でも長門有希ではないでしょ。

 

 個人的には森博嗣の小説のなかでも『有限と微小のパン』を選んでいるところや、哲学書枠でヘーゲルの『精神現象学』が入っているところが人間味を感じてちょっと良かった。長門有希さんのキャラ設定的に、哲学書はもうすこし安直にサイエンス寄りにしても良かったのではと思う。

 

 かぶった中でのおすすめは『双頭の悪魔』(有栖川有栖)かもしれない。青春ミステリのこのシリーズはとても好きで、そのエバーグリーンさに見合わないかなり渋い謎解きを見せる『双頭の悪魔』はとても良いです。

*1:いまWikipediaで調べて1期と2期で話は流用しているけど放送順が違うと知ってびびっている。「朝比奈ミクルの冒険」ではじまるって何? 攻め過ぎでは…。

*2:サイエンス寄りのミステリとSFから入って物語にハマって、そこから人文系の古典にもちょっと手を出してみるペダンティックさがある、みたいな。あと「この世代か」という感じもある。

コンステレーション~滝口悠生『長い一日』~

 

 佐川恭一とVtuberと水タバコが好きな友人がいて、その友人とたまに読書会をしている*1。読書会といってもカジュアルなもので、交互にお題の本を提示してそれを読んできて軽く話す、というだけのもの。今回お題を出す番だったのが友人で、出てきた本がこれだった。

 

 『長い一日』という題名だが、作中で描かれるのは1日だけではない。ある一日を起点として、そこに連なっていったりそこから離れていくいろいろな出来事をエッセイ風に、ローカロリーな文体で描いている本だ。なので「長い」というのは「長い20世紀」とかいうときの「長い」である。

 

 小ストーリーがいろいろ描かれる、という形を持っていて、中心となる話の筋はない。視点人物もころころと不思議な形で変わる。出来事は作家とその妻の日常が主だが、ちょっと違う周辺の場所や人物にスポットが当たることもある。ちょっと違うかもしれないけれど、読み味としてはナタリア・ギンズブルグの『ある家族の肖像』を思い出した。

 

間もなく座席で眠ってしまった窓目くんは、家に帰るには高田馬場で降りてJRに乗り換えなくてはいけなかったがそのまま終点の西武新宿まで行き、おそらく眠ったまま折り返しの下り電車で運ばれた。窓目くんはそれを覚えていない。だからその移動の記憶は誰のもとにもない。電車はまた高田馬場を過ぎ、新井薬師前を過ぎ、鷺ノ宮を過ぎ、夜の武蔵野を下っていった。

 面白かったし、粗さがしをしようとしてもとくにつつくところがない。僕が悪いやつでいえば、登場人物がきれいな心でていねいな生活をしているので、自分も自分の暮らしに自信を持てているときにはいいが、そうでないときに読むと「なんだしゃらくさいこいつら、ムカつきすぎる」と作中の人々に腹を立ててしまう、という難点はあるが、まあ僕が悪い。

 

 出来事をとくに枠にはめず、美化もせず意味をおおきく読み込むこともなく、選別せずただ起こったままに語っていくことも十分文学作品を成立させる、……という考えかたはもともと持っていて、最近はもっと大きなドラマもあったほうがいいんじゃないかという考えに揺らぎつつはあった*2 のだけど、これでまた逆に、ちいさなものの積み重ねの良さを再確認!って感じになれた小説でした。

*1:しかけている、というのが正しいかもしれない。まだそんなに定着した習慣ではない。

*2:きっかけはこれ。とても良かったんだけどどう紹介すればいいかわからない~チャールズ・ディケンズ『二都物語』~ - タイドプールにとり残されて

バキバキ童貞とピーター博士のストーリーがいま日本一熱い

 

 いま日本でいちばん熱いストーリーを知っていますか? バキバキ童貞さんと童貞研究者のピーター博士のストーリーがそれである。

 

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ぐんぴぃ バキバキ童貞の人(春とヒコーキ) (@Mugen3solider) | Twitter

 バキバキ童貞さんというのは、もういまとなってはけっこうまえなのだが、このAbemaTVのインタビューでフリー素材としてデビューした童貞男性で、ふだんは「春とヒコーキ」というお笑いコンビを組んで芸人として活躍している。

 

バキバキ童貞を生んだヤバい博士と対談しました【ピーター博士】 - YouTube

 バキバキ童貞さんはこのバズを最大限活用してYouTubeでいろいろな動画を撮っている。実際とても愛らしくて面白いのでたまに見ていたのだけど、今回ライブラリに追加された動画はすごい「深み」があったので紹介したい。

 

 ピーター博士とは? ……バキバキ童貞誕生のきっかけとなった街頭インタビュー、それを行うきっかけというかおおもとのニュース、性交渉経験と年収の相関関係を示した研究結果があって、その研究を行ったのがピーター博士だったのである。

 

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 バキバキ童貞とピーター博士の話によると、ふたりの関係は「ミュウツーとそれを生んだ博士のようなもの」だという。

 

 ピーター博士は自分の研究によって傷つく童貞のひとがいないよう、細心の注意を払ってインタビューに臨んだ*1が、街頭インタビューがたまたままじで面白い野生の芸人を引き当ててしまったため、結局バキバキ童貞というまがまがしいデジタルタトゥーがこの世に生まれてしまうのだった。

 ピーター博士は「5%くらいは僕の責任です」とそれを悔やんでいた。

 

 スウェーデンに帰国したピーター博士とバキバキ童貞は、おたがいに連絡を取るようになった。もともと、アジア人のステレオタイプ描写問題などを通じて、日本における「童貞」のありかたについて興味を持っていたという。

 

 一方日本では、バキバキ童貞の住む「キモシェアハウス」が解散されようとしていた。このままではバキバキ童貞が童貞を卒業してしまうのではないか? ……そう思って焦ったピーター博士は、無理して来日。なんと1か月ものあいだ、くすぶる芸人5人が3LDKにひしめき合って暮らす「キモシェアハウス」にホームステイしているのだという。

 ピーター博士は糖尿病や循環器を専門にするバキバキ医者*2で、マッキンゼーとかでも働いていたというふつうにグローバルエリートである。どういうことなの!!

 

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 彼女には「なんでいま日本に行かなきゃいけないの?」「私とそのバキバキ童貞と、どっちが大切なの?」と言われるが、ピーターさんは「君だよ」と言わなければいけなかったところを、あいまいにしてしまったという。「彼女に言わないといけないことがあるとはわかっていたんだけど、僕はバキバキ童貞やキモシェアハウスのことになると、どうしても守備に回ってしまう」

 

 バキバキ童貞と暮らしはじめてからも、いろとりどりのエピソードが飛びだす。サウナの話、お土産の話、ラーメン二郎に行くという約束をバキバキ童貞がなかなか守らずにキレた話、入った居酒屋でサラリーマンに絡まれたんだけどそのサラリーマンがあんまりバキバキ童貞のことを知らなかったのでヒートアップしちゃって「知らないやつは、いますぐバキバキ童貞でググれ!!」と叫んで居酒屋を後にしたという話、……。

 

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バキバキ童貞卒業への道 ~童貞博士の異常な行動編~ – LOFT PROJECT SCHEDULE

 視聴期限が迫っていたので、あわててバキバキ童貞とピーター博士が横浜でやったトークショーの見逃し配信を購入した。

 いじり文化とか政治的正しさ、アカデミシャンと芸人ライブのカルチャーの違いもあって観ていてひやっとするところもあったが、バキバキ童貞とピーター博士が相互に抱いている太いリスペクトと興味のおかげで、とても面白いトークになっていた。

 

 もう一回埋め込みます。もう何本かこのふたりの動画が上がるみたいなので、たのしみ。間違いなくこれが、いま日本で一番熱いストーリーだ。

*1:実際、ニュース映像も時間を使って研究の含意について説明をしているなど、博士の意志をくみ取った非常に丁寧な作りになっている。

*2:童貞の研究は予算が下りないので趣味でやっているらしい。

so come home (帰っておいで)

 

"i just want to go home" said the astronaut.
"so come home" said ground control.
‘‘so  come  home’’ said the voice from the stars.

「帰りたい」宇宙飛行士は言った。
「帰っておいで」地上の管制室が答えた。
「帰 っ て お い で」星たちの声が答えた。

 

 『インターネットは言葉をどう変えたか デジタル時代の〈言語〉地図』*1という本を読んでいた。そのなかに、「インターネットでは文字の表記のしかたで語調を表現するのがみられる」という文脈で紹介されていたツイートが良くて、しばらくのあいだ感動していた。

 

 孤独で危険な任務を帯びる宇宙飛行士が、宇宙にいる素朴な実感として「家に帰りたい」と思う。するとそれに優しく、勇気づけるように「帰っておいで」と地上管制官が答える。そして、星たちも答える。ほんとうに帰る場所は私たちのところでしょう、と確信しているかのように。

 星たちの声は全角文字で表現されていて、宇宙にふわっとした声が響いているような感覚を与えている。

 

 『インターネットは言葉をどう変えたか デジタル時代の〈言語〉地図』の作者は引用のあとこのツイートを以下のようにほめている。「わずか140字足らずで、既知のものへの憧れと未知のものへの憧れとのあいだにある葛藤、人間と星屑というわたしたちの二面性について、物語を語っている」

 

 さっき「しばらくのあいだ感動していた」と書いたのはちょっと縮小した表現で、本当はいまも感動しているし、何なら読んだ直後はちょっと泣いていた。

 人間として暮らす家と、そうではないもっと大きな宇宙の物語のひとつの構成物として帰る場所である宇宙空間、このふたつの価値が地球から遠く離れた、管制室の声がぎりぎり届く場所ではほぼおなじ重要度で並べられている。結末はオープンだけど、もしこんなことがあったら宇宙船につながっているひもを切っちゃってもおかしくない。

 でもトーンとしてはユーモアにあふれていて、E.E.カミングスの詩みたいである。

 

 たんに良いだけではなく、人にインスピレーションを吹き込むようなツイートなのが素晴らしいと思う。おなじ内容が映像やイメージ作品でもあることができるし、物語も見えるし、詩にとどまっていても十全に美しいし、音楽にも立体造形物にもなれるだろう。

 実際、検索するとこれを題材にしたファンアートがけっこう見つかった。正直僕もなんらかの場所で、人生で一回これにトリビュートしたいという気持ちにいま満ちあふれている。

 

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 ちなみにツイートしたjonny sunさんは先ほどの本のなかでは「インターネット上で活躍するユーモア作家」と紹介されていた。その肩書が実質どういうことなのかはよくわからないのだが、ひょっとしたらこの国でいう「ネタツイッタラー」を向こうの国*2ではそう呼ぶのか…?

11人の炭治郎と引き分ける~21シーズンJ1第33節 北海道コンサドーレ札幌vsアビスパ福岡~

 

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 宮澤選手とルーカス選手がケガで離脱していることが試合前に発表されていた。どちらもチームの主力選手であり、またちょっとスカッドが苦しくなってきた。

 

 ……という背景があったからなのか、今回の福岡戦はちょっとおとなしめの試合になった。ふだん札幌は、攻撃時の大幅なポジション移動や守備時の先手を取ったプレッシングで試合を流動的にし、そこで生かせる得意のパターンをいくつか持つことによってチャンスクリエイト回数を増やす、といった設計のサッカーをしているのだけど、今回はプレッシングもポジション移動も、とくにプレッシングを控えめにして、試合をあまり荒らさないようにしているように見えた。

 

ジンクスを打ち破れ!!【勝負の秋の陣】「2021スペシャルユニフォーム」着用試合および販売のお知らせ | アビスパ福岡公式サイト | AVISPA FUKUOKA Official Website

 

 一方、対戦相手のアビスパ福岡は「降格のジンクスを打ち破る!」べく、すこしまえから炭治郎のコスプレをして試合に臨んでいる。

 

終わりなく柄が続く市松模様は、日本古来より親しまれ、永遠や発展などを意味する縁起の柄と言われています。

私たちアビスパ福岡は、ジンクスを打ち破りJ1で戦い続けるクラブとなり、これからも皆様に愛され、伝統あるクラブへ永遠に発展しつづけるという決意を、このユニフォームに込めました。

 もっともらしいことを書いているが要するにしょせんにわか鬼滅キッズ集団ということ。負けられますか? 闘争心が煽られる。

 

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 札幌の消極的な入りが福岡にとってはちょっと意外だったかもしれない。福岡もプランは後半勝負だったと思うのだけど、(通常はカオスを作りすぎて試合終盤息切れする)札幌は、消極的にプレーをはじめたぶん、隙の糸を見せず呼吸を保って試合を戦った。

 札幌はスルーパス1本から、福岡は札幌のミスをつく形でいくつか、それぞれ決定機を作ったけど決め切るクオリティがなかった。結果は0-0の引き分け。

 

 まあでも、炭治郎11人*1と引き分けたと考えれば悪くない結果でしょう。けが人やコンディション不良というハンデもあったし。

 

 個人的に気になったのはCB中央を務めた高嶺選手。この起用については札幌サポーターはそれぞれの意見を持っていると思う。僕はちょっといやだったのだけど、今日の試合を見て考えが変わった。これはオプションとして続けていってもいいのかも。

 

 パス出しの気の利きかた*2とか、カバーリングを意識したポジショニングとかはどうしても本職のCBではないのだけど、かといって相手ボックス付近で攻撃的な役割をこなすのが得意そうでもないので、むしろもともと光っているプレス耐性の高さや、1vs1の粘り強い守備を活かして、「ちょっとあやういけど中盤底とCBの両方でやれる、ボール扱いがうまくてファイトもできる」みたいな立ち位置の選手になってくれたら面白い、観てみたいと思った。

 

 あとは、札幌の選手みんな全体的に調子悪そう*3だったけど、チャナティップ選手はフィット感をかなり取り戻していて良かった。イエローカードになるファールを誘った場面二回、体でフェイクを入れて小気味よく逆を突いて抜くドリブルは最高でした。

*1:交代選手も含めたら15人。

*2:アグレッシブすぎて周りと息が合っていないときが見ていて怖い。

*3:とくに金子選手は全盛期の25%くらいの切れしかなかった。

Liquidoが意外な音をしていて良かった

 

 なにげなくSpotifyを鳴らしながら仕事をしていたら耳にとまる曲があった。Liquidoというおそらくロックバンドの、Ordinary Lifeという曲である。

 

 バックグラウンドから意識の前面にきゅっと入ってこれるくらいキャッチーなイントロは、耳にあたりのいいやわらかな電子音ののりのりリズムでできている。つづけて聞いていると、音楽から想像していたのとはちょっと違う、やや青臭い目のボーカルが入ってくる。

 曲はタイトルの「Ordinary Life」を連呼するところに向かって盛り上がっていって、そのあとは、おもわず性的なたとえを使ってしまいそうなくらいすぐ余韻モードに入る。

 

 この複合的な感じが、僕の琴線に毎回触れているようないい意味のだささだったので、その日からは音楽を聞くときにはLiquidoの曲をよく聞いているのでした。

 

 名前をみるとラテン系の言語で「リキッド」にあたる語のように見えるのだが、ドイツのジンスハイムという町出身のバンドらしい。このNarcoticという曲で中欧を中心に有名になったが、それ以降そこまで大きなヒットを出せず、一発屋の印象をぬぐうのに苦労したバンドのようである。

 

 その大ヒット曲を聞いてみたけれど、ドイツのバンドという先入観を持って(そしてさっきのOrdinary Lifeを聞いた印象を引きずって)聞いてみたらちょっと意外な音をしていた。なよなよしたナードなエモじゃないか、これ。聞いていると僕の愛してやまないMae*1と似た感情になる。 

 

 最初は電子音系の音楽に軸足を置いているバンドが、ちょっとださめのオルタナポップを組みこんでみた、んじゃなくて、ひょっとしたら重要性的には逆なのかもしれない。

 

 ほらやっぱりな! なんだこのエモーショナルで自意識が高くてくさい*2イントロは! 好きです!

 

 バンドは5枚のオリジナルアルバムを発表して2009年にキャリアを終える。聞いてみると、わかりやすいポップさとやわらかなリズム電子音のアクセントという特徴を維持しつつ、着実に曲作りの引き出しを増やしていっているような感じがした。

 ただ、一発当てた曲が一発当てたゆえんは音楽的な良さというよりはもっとエモーショナルななにかだったと思うので、その着実な進歩にそこまで人気はついてこなかった……、というストーリーだったのだろうか。

 

 キャリア後期の曲もぜんぜん聞いててわくわくできるいい曲だと思うんだけど……。ミュージシャンって難しい商売ですね。

 

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 ていうかこのジャケットでやや青いポップバンドだと認識するの難しくない?

*1:詳しくはEmbers and Envelopes - タイドプールにとり残されて

*2:ぜんぶいい意味で言ってます。