千種創一『千夜曳獏』

 

 という歌集を読んでいた。良かった。

 

これ走馬灯に出るよとはしゃぎつつ花ふる三条大橋わたる

雨だから泊めてもらって長城のような座卓をはさんだ眠り

抱擁を交わせば遠くで堰が切れ、しぶきが踵にかかり冷たい

  自然のものとか歴史あるものとか、文学の題材として由緒のあるモチーフを使って、その格調を活かしつつ「エモい」感じの歌にする、というのが特徴的な作家なのかなと思った。

 「抱擁を~」の歌は不思議な時空間と因果関係の感覚をもっている。それは現実の出来事としては不自然であるが、遠くで切れた堰の水が流れてきてそれが踵にかかったよ、というような雰囲気を出していて面白い。

 

そのときは捨てられようと決めている。犬みたいに、像になるまで

誕生日カードをあなたへ書くときの蛍光ペンの乾く速さよ

峠からみれば豪雨は天と地をつなぐかなしい柱 都よ

 格調高い雰囲気はあるのだけど、言葉の使いかたとしてはけっこう無理をしている。「そのときは~」の歌もそうなのだけど、「十分伝わる」というよりは「ぎりぎり伝わる」感じの言葉選びをしていて、格調高さがいっしょに生み出しがちな退屈さをうまく回避しているようにも見える。

 「誕生日カード~」の歌は全体的なテイストからはちょっと離れた、細かい着眼点のある歌なのだけどそういうのもふつうに上手いのですごい。

 

飲みさしのシードル二本 悪魔だって悪魔に会えると嬉しいんだよ

デカンタの傾きのなか緋は透ける終るならとびっきりの悲劇を

 「飲みさしのシードル」の歌はいちばん好きだったかもしれない。「悪魔だって悪魔に会えると嬉しいんだよ」って言われると、逆に悪魔は悪魔に会ってもうれしくないって前提があったんだ、ってなるよね。その、べつに共有していない前提とそれに対する逆の主張を同時に新しい情報として出して、その重なり合いで面白がらせるという詩の技法があると思うのだけど、それのきれいな例だと思う。

 

冬時間へ時計の針をもどすとき眼からあふれてくる夏のみず

火。陽。日。正しい漢字を選びつつ老いていくことすごく正しい

 「火。陽。日。」の歌はどこまで「火曜日」とも読めるのを意識しているのだろうか。「正しい漢字を選びつつ老いていくことすごく正しい」という落としかたは、「火。陽。日。」との関連性がそこまでないというか、なんでもそうだろとちょっと思うのだけど、実感というのはまあそういうものなのかもしれない。

推し(μ's)に連れていて欲しいポケモンを考える 4 

 

矢澤にこ

 

 矢澤にこはμ'sのなかでもひょっとしたら一番意見の分かれるキャラかもしれない。面倒見の良さや懐の深さを見て取る人がいるし、それとは逆に頑なさや狭量さを感じる人もいる。年齢より子供だと思う人もいるし、大人だと思う人もいる。友達思いのようでもあるし、根本的には孤独が好きなようにも見える。苦労人だと思う人もいるし、苦労人というよりは周りに苦労を掛けるキャラだと思う人もいる。グループの陰の主役のようにも見えるし、内側にいる敵のようにも見える。

 そういった矢澤にこさんの多面性を表現できる6匹のポケモンを選びたい。まず最初に候補に挙がってくるのがこの子なんじゃないでしょうか。

 

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 衝撃のビジュアルと、「こわがられないようにピカチュウっぽいぼろきれをかぶっているゴーストポケモン」という衝撃の設定で情報解禁と同時にセンセーションを巻き起こしたこちらのポケモンである。

 ミミッキュに共感しているでもいいし、ミミッキュの孤独を受けとめているでもいい。ミミッキュと深い関係性を築いている矢澤にこが、いてほしい……!

 

 この枠は、ミカルゲとかガラガラでも面白いなと思う。

 

ドクケイルバリヤードマシェードマタドガス(ガラルのすがた)、ベトベトンアローラのすがた)、バイバニラドデカバシキテルグマ

 それに加えて考慮したいのが、矢澤にこにはコンサバではなくアヴァンギャルドな美意識があるということ。コンサバではなくアヴァンギャルドな装飾的デザインをしていて、それがゆえに目を引くポケモンをいくつかリストアップしてみたが、これらのうちどれかは実際連れているのではないでしょうか。

 

マリルリクチート、モルペコ、イルミーゼニャオニクスニンフィアブラッキーチラチーノペルシアンソーナノロトム、ニューラ

 あと、王道にかわいい系のポケモンもそれはそれで連れていそうな気がする。モルペコやクチートだと、かわいいと思って近づいたら刺がある!みたいなところも再現できるので絵としては美しいのだが、矢澤にこさんってたぶん同族嫌悪かなりある側の人間だと思うので、実際いっしょに冒険をするポケモンにこれらを選ぶ率は低いんじゃないかと睨んでいるんですよね。

 

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 チラチーノ、あたりがクリティカルなのではないか。

 

 というわけで今回の推し(μ's)に連れていて欲しいポケモンを考える、矢澤にこ編の選出は以下のとおりとなりました。たぶん、見た目で強そうなポケモンが入らない唯一のキャラになるのではないかと思うのだけど、そういう、強そうに見えないポケモンでしたたかに、一芸やからめ手を駆使しつつ戦うのが非常に似合っているのではないでしょうか。

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日本の西洋料理 ほか

 

限定製造 麦とホップ

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 ふだんは焼酎とかウィスキーとかジンの瓶を買ってきてそれを炭酸で割るなどして、なんというか、こう、自己目的化した荒廃喫酒をしていることが多いのだけど、でも人格のなかのアルコール依存症部分を除いた根っこのところではこういう期間限定!みたいな、飲むこと以外に味や香り、めずらしさなどをたしなむ荒廃していないお酒も好きなのである。

 

 今日飲んだ麦とホップの限定製造版は、発泡酒をベースにした第3のビールなのだけど、スピリッツの鋭い当たりをマジで感じないすごい出来だ。これはブラインドで出されたら第3のビールとは気づかないかもしれない*1。カラーリングもさわやかでとても良いですね。

 

 酒税法の改正により数年後には消えるジャンルではあるが、それでも「本麒麟」あたりから継続的な進歩があって、新商品を飲むたびに感動している。

 

柏レイソルvs北海道コンサドーレ札幌

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 折り返し地点が見えてきたJ1リーグ17節。札幌は最近低迷している柏と対戦。……こちらの回でも述べたように最近はチームとして向かっている道筋がよくわからないので、あんまりちゃんとしたモチベーションでは見れていないのだけど、でも変わらず調子の悪いチームには勝てているし、これで6勝4分6敗と通算成績をイーブンに戻せたので良かった。

 この分なら、残留争いに加わることなく今年を終わらせることができるのではないでしょうか。それで来年以降になにが残るのかはよくわからないが、コロナ禍でもあるし、こういう守りのシーズンがあるのはしょうがない。

 

 試合は二度のVARや前半アディショナル驚異の10分*2とか、プレー以外でのトピックが多かった。個人的なMIPは高嶺選手です。1点目の起点になったキーパスは見事。

 

日本の西洋料理

 最近「日本の西洋料理」というウェブページを見つけて*3、面白かったのでこつこつと読んでいる。レストランで働く料理人が西洋料理の歴史だったり、料理豆知識だったり、外食業界について思うことだったり、料理とは関係ない雑記を書いていたりするページで、けっこうまとまった分量のテキストがある。

 まとまった分量のテキストがある個人サイトというだけでとても好きなのだけど、このページにはフレーム式で、そんなクラシックなつくりなのに2021年の時点でまだ更新がある。

 

文明開化以降、日本に入ってきた洋食。
今日や日本の食文化の一部として定着していますが、そうした洋食に関する話題を紹介していきます。

西洋料理の歴史、洋食の歴史、日本の西洋料理を育てた伝説のコック達のエピソード、レストラン業界の人間だから知っている舞台裏など。

洋食にある壮大な背景を知ることで、いつもの見慣れた洋食が、もっと楽しく・美味しくなる!

料理好きな方はもちろん、業界関係者の方にもお楽しみいただければと思います。

 変な飾りがなくてすいすい読めるし、知識も増える。かなりおすすめコンテンツですよ。

*1:一応、ここに差があるなというポイントはあるので覚えれば分かりそうではあるが。

*2:もちろん僕が見たことあるなかで一番長い。

*3:リンクカードが文字化けしているかもしれないが、それも良い。

短歌 33

 

まっさらな養生シートが引越しの部屋まで続いていく梅雨の入り

 

 

鍵盤のすぐ下の層に張る氷 温かな指叩きつけてよ

 

 

誘拐者えらい!だれにも気づかれず送り迎えのときのほほえみ

 

 

空はグレー海はブルーに光らせて夜間モードの地球であった

 

 

人はみな生きているのではなく死んでいる人もいる 半々くらいさ

 

 

陽のなかで肩をあずけた炉のなかに天使がいたかも知れなかったね

 

 

鉄棒で回れるけれど回りたくなくてツバメのままの放課後

ドラゴンクエストで好きなモンスター

 

 ドラゴンクエストにはたくさんのモンスターがいて、たんに打撃や呪文で倒すだけではなく、仲間にしていっしょに冒険したり、パークに集めて愛でたり、スカウトしてチームを編成したりなど、シリーズごとにさまざまな触れ合いかたをすることができる。

 今日はそんなドラクエのモンスターのなかから、個人的に好きなモンスターをいくつかの部門に分けて発表したい。

 

見た目が好き

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 見た目が好き部門1位はゾンビーアイです。けっこう衝撃的な見た目をしているのでファンがドラクエ愛を語るコンテンツではけっこう語られの対象になったりもする、まあまあ有名よりのモンスターだと思う。

 でも、この子、たしかにグロくて気持ち悪いんだけど、それだけじゃなくてちょっと愛敬ありません? PS版ドラクエ7でパークに送ったときには、口をぱくぱく、目をくりくりさせながら墓場を動き回っていて、幼心に「君ふつうにかわいいな…」と思ったのを覚えてる。よだれとか拭いてあげたい。

 

 ブロブロスとかマンイーターとか色違いもけっこういて、カラーリング的にはブロブロスが好きかもしれない。

 

思い入れがある

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 思い入れがある部門を制したのはキラーマシンです。ドラクエ5をやっていたときにはビッグ5*1のうちだれか一体は仲間にしたいなと思っていて、お盆のお手伝いの合間に弟(弟はヘルバトラーを狩っていた)とゲーム機を交代しながら精力的に狩って、……その日の終わりごろにやっと仲間にすることができたモンスターだった。名前はロビン*2

 すでにエスターク20ターン以内討伐も、最後のすごろく場攻略も終わっていて、ロビンが加入してもやることなんてとくになかったのだけど、それでもロビンと一緒にいろいろなところのモンスターと戦いなおしてみたりして、楽しかったのをおぼえている。ゲームをやるうえでロールプレイが自然にできていた時代のいい思い出だ。

 

挿話が好き

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 挿話が好き部門の勝者はメタルドラゴンです。「ケロロ軍曹」で有名な吉崎観音作の「ドラゴンクエストモンスターズ+」というドラクエへの愛が詰まった漫画作品があるのですが、そこに出てくるメタルドラゴンのエピソードがとても良い。

 

 村の防人として変人の鍛冶屋に作られた機械のドラゴンが、ひとしれず村を守るんだけど、いつしか外敵のためではなく自然な時の流れとして村は滅んでしまう。廃墟となった村を、孤独な心を持ったモンスターマスターが訪れる。機械のドラゴンの前を何事もなく通り過ぎる。

 ……かと思ったら、ちょっと行き過ぎたあたりで振り向いて「おいで」とモンスターマスターが言う。これまで微動だにしなかった機械のドラゴンが翼を広げて浮きあがる。

 

 もちろんかっこよくて、ドラクエ5で初登場したときから人気のモンスターなのだけど、にしてもこんなかっこいい、印象的なフレーバーストーリーがつくことがあるかよ。いまでもたまにその出会いのシーンを思い出しては、いい話だったな…、と感慨深くなっている。

*1:ドラクエ5でとくに仲間になる確率が低い5匹のモンスター、ヘルバトラーキラーマシンはぐれメタルメタルスライムメガザルロックのこと。

*2:デフォルトネーム。

今夜聞いた曲♪♪♪♪♪♪

 

 職場で聞いて「あまり刺さらないな…」と思った曲でも、家に帰ってリラックスして聴いたら「めっちゃいいじゃん!!」となることがけっこうある。

 今回も例にもれず、慣例には反して、表記は「曲名 - アーティスト名」です。

 

1.Boy - Ra Ra Riot

2.Troublemaker - Camera Obscura

 やっぱり個人的にはどんな夜も求めているのは質の高いポップなんだよ。名曲でなくても全然いい。質が高くて、ポップであるだけで……。

 

3.Bet My Brains - Starcrawler

4.You're Out - Dead Disco

5.M - 浜崎あゆみ

6.The Key to Life on Earth - Declan McKenna

 突然出てくる溶鉱炉に沈むシーンのオマージュよ……。SNSのいいねボタンと良くないねボタンを彷彿とさせるカットとか、電気マークの下からゴキブリコスチュームで上がってくるところとか、映像のキレも良く感じる。

 

7.A Design For Life - Manic Street Preachers

8.Strange Astrology - Slothrust

9.LUV PANDEMIC - Tei Towa

10.Save World Get Girl - I Fight Dragons

11.Cigarette Packet - Sorry

 ポップなようにも聞こえるけどけっこう角が立っていて、ちょっと身構えてしまう曲だけど良い。たばこを喫っている口もとだけにフォーカスした映像も、かなり露悪的だけど、それはそれで一貫しているのかもしれない。

 

12.If This Tour Doesn't Kill You, I Will - PUP

13.Mr. Brightside - The Killers

 特別好きだった期間は短いのだけど、結局The Killersだよなとなってしまう夜の瞬間は多い。

 

14.Karma Chameleon - Culture Club

 天才テレビくんの企画で山崎邦正がこの曲の日本語訳バージョンを歌っている音源があるのだけど、その音源のサビの部分の訳詩「好きな色さえも移りかわるよ」が素晴らしい、という意見をTwitterで見て、マジでその通りだよな、と思った。

 

15.Release - Afro Celt Sound System

16.Now I Wanna Say Apology To You - Hang on the Box

17.Parklife - Blur

ステイ・ソバー・エントリー

 

 今日は絶対お酒を飲むまいと決め、ただ心に決めるだけではなく、禁酒に関するブログを書いておいて、達成出来たらご褒美に公開する、ということにした。その結果がいま見てのとおりである。この回が無事公開されるというのは簡単な条件を満たせばすむことのように見えるかもしれない。……でもとても珍しいことなのだ。アルコール依存症者にとっては。

 

 まずは、なぜ今日絶対お酒を飲むまいと決めたのかについて話したい。

 ここ最近、ちょっと珍しく、たまたまお酒を飲まなかった日が続いたのだけど、その日はよく眠れるし、体が軽いし、昼ごはんや夜ご飯のときに食欲があって、食べたものの味がはっきりとしていておいしかった。食事が楽しかった。空気の匂いや水分補給のお水でさえいつもと違って感じられた。

 

 「俺くらいアルコール依存症になると、逆に『酒を飲まない』ことでも、こういうふうに向精神作用*1を感じることもできるのか」と思い、「これからはたまにはお酒を抜いて、その精神状態を味わうのも悪くはないな」と思った。

 

 それで、「今日はひさびさに酒を抜いてあのときの感じを味わってみるか」と思ったのが昨日のことである。「禁酒」と表現してしまうと、なにか自由が失われているようでたいへん主観的につらいのだが、僕の自由意思によってあえてしらふでいることを楽しむ、のであればぜんぜんOK、と思ったのだ。

 

 しかしそう決めたあとに起こったことがちょっと個人的にはショックだった。心の中から、無意識から呼ぶ声がするのである。「本当に飲まなくていいのか?」と。

 

 だって、べつに飲んでもいい日なのだ。飲んではいけなくて飲めない、つらい経験をこれまでもしてきただろ? 飲んでもいい日に飲まないのはあの時我慢した自分に失礼だよ。なにも買わないで家に帰って、「飲みたい!」と思ったらどうする? 後悔するよ? そもそも、人生なんて通過するだけのものだし、飲まないのは損だよ。スコット・フィッツジェラルドウィンストン・チャーチル朝永振一郎、その他過去の偉大な人々も酒を楽しんでいた……。お前もそれに続くべきだ。なぜ賢ぶっているのか? 飲みたいなら飲んだほうがいいんだよ。むしろ飲むことでストレスが解消されて、健康にいい。

 

 といった、無限に湧いて出てくる「考え直せ」の声に、その日の僕は「いや! 今日は飲まないと決めたのが僕の自由意思なんだよ!」っていう自分の気持ちを負けさせてはいけないと、ひとつひとつ反論していくのだけど、すこしずつ疲れていく。意志の力、自由の力は有限で、体に染みついた「依存」の猛アプローチについに折れてしまう。

 

 最終的には、「ここで信号を待つより、ひとつ向こうの信号のない横断歩道を渡って、ついでにそこにあるコンビニに寄って酒買うほうが合理的じゃん!」という口実を受け入れてお酒を買ってしまった。複雑な気持ちで買った酒を飲みながら、「禁酒ができないのは知っていたけれど、しらふを楽しみたい、と自分の意志どおりに行動することでさえも俺にとってはこんなに難しいのか」と思ってちょっと泣いた。悲しみの酒だった*2

 

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 なので、今日こそはそのリベンジ、ということである。昨日のとおりいったらお蔵入りになってしまうが、僕だって愚かではなく、しらふでいることを実現させるためにちょっとした分析と対策はしてある。

 はたして、この回は公開されているのか……? 楽しみです。

*1:精神状態が薬物によって変わるのが楽しい、というのが僕が酒を飲む理由の大半である。

*2:でも、自分の無力をかみしめながら飲む悲しみ酒は正直まじでマゾうまい。