ファック・ユー! おれはまじめに暮らしてる~「ウルフ・オブ・ウォールストリート」(2013)~

 

The Wolf of Wall Street - IMDb

 「ウルフ・オブ・ウォールストリート」を見ました。ひとりの株式仲買人が犯罪を犯しながらのし上がり、ちゃんと破滅していくさまを描いた映画で、エピソードは実話をもとにしているらしい。映像の中身は非常に風紀が乱れたもので、……高校生のころは風紀委員をしていたこともある僕にとっては目をそらしたくなる時間帯がほとんどでしたが、一方でその乱れを映像としてとてもとても魅力的に描いていた。

 

 3時間ある長い映画ですが、非常にエンターテイメント性に富んでいるため最初から最後まで熱中して観れてしまう。3時間もあるわかるとふだんは再生ボタンを押すのにちょっと覚悟がいるところですが、これに関しては気にせずに押してしまってもいいと思う。

 

ウルフ・オブ・ウォールストリート』 予告編

 株の世界でずるをして成功した男が、法の裁きを受けて積み上げたものすべてを失う、というお話なのですが、具体的にどういうことをしたのかを中心に話すビジネス劇にはせず、むしろビジネスとは正反対(ともいえる)の「家庭」「生活」「暮らしぶり」の視点から描いたのは大きなポイントだったのではないかと思った。

 

 どういう詐欺をして、どのようにそれが発覚したか?という話でもいいのだと思いますが、それではどうしても面白さがテクニカルになってしまう。

 そうではなく、成功してお金持ちになるのは、そしてそれを失うのはこういうことなんだよというのを映像で描いているので、なんというか、そういう世界に縁のない平民にとっては肯定と否定の感情を同時に掻き立てられるような、なんとも求心力のある作品になっていると思うんですよね。「株の大金持ち」という人物にたいしてどうしても持ってしまう、あこがれと蔑みの感情を、最大限にこの作品に利用されてしまったなという感じである。

 

 細かい演出の点でもう一つ思った点としては、くだらない会話をよく聞かせる映画だなというところ。登場人物どうしの痴話げんかだったり下ネタだったりバカ話だったり、詐欺トークだということが作外で示されている主人公の演説とか、……基本的には聞くに堪えないような、映画ならカットされて別にいいような会話のシーンを非常に魅力的に見せている*1、というかそういうのをほかのシーンでつなぐだけで成り立っているような映画と言ってもいいかもしれない。

 こんなやり方でも面白くなるんだなあ、と思うし、逆に作品の性質上初めから話の流れも落ちも全員読めているので、こういった形で意外な会話だけでサスペンスや見せ所を作る手法にはぴったりの題材だったのかもしれない。

 

日本語版wikipediaによると、1位らしい

 良くないところもあるのだと思うが、それは基本プロモーションで出しているのである意味誠実ともいえる。予告編やビジュアルなどを見て第一感で、「この映画、好かんな」「信念に反するな」などと思った場合はそのまま見ないのが正解になると思われる。

 

 もう一点、最近「被害者の視点が描かれていない」ということで話題になった受賞作がありましたが、同じ批判をこの映画に当てることもできるでしょう。*2

 

 また気になったのが、ネットとかで検索すると、「人生を得して生きるためのビジネスマインドセット」みたいな文脈でこの映画を楽しんでいる層がけっこういるのである。たしかに、詐欺師である主人公の所業について、とくに価値判断をしていない作品なので受け取り方として大間違いということはないと思いますが、でも、この映画を見て「ペンの売り方」のシーンとかに感銘を受けていたらよっぽどその人は狼じゃなくて羊の側*3でしょ。自分の人生を安全に保ってほしい。

 

まとめ

 金融商品でひと勝負するときには頼むからみなさん一回だけ冷静になってね。電話の向こうにいるのはたいてい狼だ。

*1:「本筋」の事業拡大だったりFBIとの攻防がけっこう簡単にダイジェストで流されるのとは対照的である。

*2:ただあまりそれを描きすぎると作品の持っている面白さのベクトルに反してしまうという不安があるのはわかる。最後の最後にでてくるカットが、ぎりぎりのエクスキューズという感じである。

*3:ちょっとでも印象的な被害者のシーンを出しておけば、(少なくともおおっぴらには)こういうことにはならないのだと思うが。