トゥルー・ラブ・ストーリー~「嘘喰い」~

 

 ふだんつきあっている人たちが最近「エア・ポーカー」編の話しかしなくなってしまい、話題についていく必要性が生じた。それに、大学時代バックパッカーをしていた先輩もそういえば、

インドに行った時と、エア・ポーカー編を読んだときで2回人生観が変わった

 ということをよく言っていた。

 

連載漫画『嘘喰い』|週刊ヤングジャンプ公式サイト

 というわけで「嘘喰い」を読みました。非常に内容に富んだ、さまざまな側面を持つ、……ギャンブル格闘漫画なのですが、いったん「ギャンブル」と「格闘」の側面はここでは置いておいて、「ギャグ」と「純愛」成分についての話をさせてください。

 

 この漫画は、ずっと登場人物が命を懸けたギャンブルをしている非常にシリアスな作品なのですが、同時に全編にわたって「シリアスな笑い」*1、……登場人物たちはいたってまじめなのだけど、読者の視点ではたから見ると非常に笑えるシーンがけっこう挿入されている。

 

 どこが一番、ということもないのですが、個人的にはファラリスの雄牛のときの「髭時計」、あとプロトポロスに入ってから登場人物名が「りゅうせい」「チャンプ」みたいな気の抜けた登録名で表示されるところなどで笑った。

 

 全体的にギャグセンスが光っていて、でも作中のバトルが佳境を迎えてくるとその真剣さにも引っ張られてしまう。のめりこんでもいいし、一歩引いてもいい。ふたつのレイヤのどっちで見てもそれぞれに面白いというのはなかなかない素晴らしいことなのではないでしょうか。

 

 もうひとつ、「純愛」側面。びっくりしたのですがこの作品、男性が男性に向ける「愛」「思慕」の情がてらいなく、まっすぐに、さりげなく繊細に描かれている。

 

 これは僕が勝手にそういうEYEで読んでいるというわけではなく、作品の意図としてあると思うんですよね。

 じゃなきゃ、最終決戦が「相手がどのタイミングでなにをするかを、相手の気持ちになって『読み合う』だけのゲーム」にはならないだろうし、そのゲームの展開と軌を一にして、「最後の戦いに挑む二人がおたがいの心をどれだけ深く理解し合っているか」を描くものにすることもなかっただろう。*2

 

 貘さんとカジ、貘兄ちゃんとマルコ、貘とハル、貘と伽羅さん、貘様と夜行さん、……といったふうに主人公を取り巻く関係性の矢印には、それぞれ「そこだけ」の呼称バリエーションもつけられていて、エモーショナル。これも、「嘘喰い」が純愛マンガであることの傍証になりませんかね。「男男」の関係性の話なんですよこれは。

 

 「ウウ…」と胸を打たれるシーンはいくつもあるのですが、個人的には、蜂名と大船。コンテナの中で、「もうすこし『蜂名』として君と一緒にいたい」みたいなことを言うところで、めちゃくちゃ心を動かされた。*3

 

 もちろん、本筋のバトルもギャンブルも面白いのでおすすめの漫画です。あと実写映画化もされているらしい。予告編を見た感じ、キャスティングもキャストの演技力も素晴らしく、非常に期待の持てそうな仕上がりである。映画版も絶対に見ようと思います。楽しみだな~~。

 

*1:バクマン。」が普及させた言葉だけど、フィクションに没入する態度と、フィクションを作者が作った構築物として一歩引いて見る態度両方を取らないといけない、けっこう高度な批評概念なので、ふつうに通じる言葉にした「バクマン。」はかなり社会のリテラシーに貢献しており、偉い。

*2:そしてこのテーマはその前の「エア・ポーカー」編を受け継ぐものになっている。

*3:叶わない望みだと知りながら、「蜂名、大船、ズッ友でいてくれ…」と思った。知らず知らずのうちに指先で空中に、「蜂名」「大船」と書かれた相合傘を描いていた。