人に愛される名作に必要なものとは何でしょうか? 多くの意見があるとは思いますが、結局作品内に登場してくる人物や事物が、どれほど魅力的かというのがいちばん大事なのではないでしょうか。元クラゲの青年エチゼンくん、恋多きゲイのモモヤマさん、ドライブの途中で知り合った金庫破りのマリちゃん、死の近づいたヤクザ横道会の会長(と死神)。そしてみなを乗せて津軽へ向かう移動入浴車。
デボネア・ドライブ 1 - 男性コミック(漫画) - 無料で試し読み!DMMブックス(旧電子書籍)
そんな漫画「デボネア・ドライブ」は本当にとてもよかったです。上記したようなメンバーが珍道中をするロードムービー的物語で、特別な太いストーリーラインがあるわけではないのですが、1話1話のつくりと味付けのセンスがとてもよくて、最後までたのしく、しみじみと感じ入りながら読むことができます。
基本的には毒のない、ほんわかしたお話なのですが、謎の追っ手を筆頭にしたドキドキする要素が物語のなかには編み込まれていて、先を読むのに飽きるということがない。……やっぱり、漫画が非常に上手くて、吹き出しではなく絵で伝えるキャラクターたちの細かいラブリーなしぐさとか、展開の分かりやすさとか、その伝わった展開の、予想を裏切りつつも期待を裏切らない奇抜さとか、すべてが最高で楽しく読むことができます。
とくに、たまに差し挿まれる大きな決めゴマは素晴らしいですね。絵自体が「上手い」わけではないのですが、その絵のなかに込められた意図や気持ち、スケールは十全に伝わる。漫画の感想で言うのはちょっと失礼かもしれないのですが、これらの各コマを解釈した、実写やアニメでのリメイクがぜひ見たいと思いますね。
作品として最高級の傑作*1か?といわれると否定的な意見はいくらでも出しうると思うのですが、この物語に引き込まれるか? 読んでいてこの温かさに惹かれるか? この作者の見て再構成するこの世界をどれくらい好きになれるか? という基準で考えるのなら「最高級」だと多くの人に認めてもらえるのではないでしょうか。とにかくここに居たくなるんですよ読んでいると。それでいてゆったりだけではなく揺さぶってもくれる。
3巻とサクッと読める分量なうえ、Amazon電子書籍では今セール中でとてもお得に買えます。過激な描写もないのでどんな人にもおすすめできるでしょう。ぜひ!
*1:最高級とまでは言わずたんに傑作かどうかであれば議論はないであろう。