まだ話し合っていない~諌山創『進撃の巨人』~

 

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 すごく面白かった。

 

 最初のころは「こんな知名度高い作品なのに、そんなにネタバレ知らないのそういえばかなり幸せだな。ふつうに生きてたらある程度踏んでても仕方ないはずなのに」と思いながら読んでいたのだが、読み進めるにつれて、「いやいや、逆に俺が誰かに意地悪でネタバレをするとして、なにをどこから話せばいいのこれ。……ネタバレを聞いていないの、ラッキーではなくかなり当然なのでは」という気分になった。*1

 

 「壁の向こうになにがあったの?」の答えなどをピンポイントに話すことはできるけど、でもまだそれだけじゃぜんぜん面白く読めるじゃないですか。実質ばらせたことになってない。かといって、話のもつれや醍醐味を全部話そうとしたら、ひとりごとの狂人になったと思われるかもしれない。

 

 とにかく非常に内容の多い話で、ほとんどすべての要素が素晴らしい。まず思考力がある。バトル*2もお話の展開も練られているし、あと作品のどんなひとかけらさえ陳腐なものにさせないという徹底を感じる。

 キャラクターも良くて、それぞれのキャラクターにそれぞれの縦のストーリーがあり、それが偶然やシチュエーションに縫い合わされることで、全体としてとても美しく有機的につながっている。*3

 そのキャラクターを立てる、かっこいい演出やきめ台詞は100シーンくらいあるし、またなくてもいいところだけどキャラクター性を生かしたシュールなギャグもこれもまたセンスがあってよい。まあ、ストーリーが深刻なので一切笑えないですが*4

 

 あと絵! 下手って話を聞いたことあるが、これはめちゃくちゃうまいでもいいんじゃないのか…? 絵の技術についてはよくわかりませんが、たしかに「この人顔でかくね?」*5となることはあったが、シーンをどう見せたいかが明確にわかる絵で、すくなくとも「使いかた」はとてもよかったのではと思いました。

 絵の分かりやすさに加えて、セリフの分かりやすさ、あと、いらないシーンをばっさりカットする禁欲的なストーリー構成もあって、非常に内容が入り組んでいて展開も早く覚えることも多い難解作品にもかかわらず、とてもスムーズに読むことができる。

 

 あと、本当にこの作品は、細かい技術とかはどうでもよくなるくらい、テーマとそれに費やした思考の量が群を抜いている。

 ある普遍的なテーマを中心に作品の世界を構想して、そのすべてを物語の形で描き切った、「全体的ストーリー」だし、ただ野心が大きいだけの作品ではなく、実際に実現していると思うんですよ。すくなくとも、最初に読んだ時の印象では、……ラストバトルに向かうキャンプで「俺たちはまだ話し合っていない」というセリフが再登場したときに、思いました。人類の書庫のための偉大な作品であると。

 実際にどうなのかはちょっとほかの人の感想とかも聞いてみたいのですが、でもみんな一致でそれが実現されていると感じているのであれば、こりゃ~100年200年のスパンで読まれるべき作品でしょう。


 他にもこの作品を読んで、そのうえで話し合ってみたいことがたくさんあるのだが、……とりあえず今日は最後に、萌え目線で一番好きだったキャラを述べて終わりにします。ハンジ。*6

*1:一応エレンが駆逐される対象であるところの「巨人」になってしまう、というのは聞いていたが、正直このレベルだとネタバレでも何でもない。

*2:とくにシガンシナ区での調査兵団vs巨人戦は漫画史に残る大白熱バトルだったのではないか。

*3:ファルコをワインで叩くところとか、それ以前のストーリーのあやとそれ以降のあやを結びつけるものすごいシーンで感動した。

*4:最後の最後の荷馬車の上でのアニの「私は?」、最上級に笑えなかった。吹き出しが小さすぎるだろ。

*5:巨人のことではない。

*6:読み終わったあとpixiv見て議論を把握した。個人的にはとくにほかの可能性を考えることなく男性だと思って読んでいました。