ワイルドな急ブレーキ&方向転換~桜井画門「亜人」~

 

亜人|アフタヌーン公式サイト - 講談社の青年漫画誌

 

 このマンガ実家に途中まであって、帰省した時に一度1巻をぺらぺらめくってみたことがあるんですよね。そのときには特別続きを読みたい気はしなかったのだが、

 

【セリフや展開にゾッとする…】漫画『亜人』のサイコパス過ぎるシーン三選

 この動画でちょっと興味を惹かれ、……この動画を見た日からさらに時間は立ってしまったのだが今回やっと全巻読みました。

 

 そして非常に面白かったです。最初、真面目でいい人そうな主人公がひょんなことから自分が亜人(どんなけがを負っても再生してしまう不死の存在で、国に見つかったら監禁されて人体実験され地獄のような目にあう)だと気づいてしまう。そんな主人公が追っ手から逃げながら「亜人」という存在の謎を解き明かしていく……、みたいな話かと思ったら急に主人公は「善人の皮をかぶったサイコパス」だと妹が言い出し、「佐藤」というやばいやつ(亜人)も現れ、「やばいやつvsやばいやつ」(両方不死)のハードボイルドバトルアクションマンガになっていく。

 

 なんか、このマンガはほんとに最初の最初には原作者と作画の二人体制だったのですが、原作者が降板してしまい、作画の人が自分の趣味を全開にして続きから描いた結果こうなったらしい。その前後ではすごいスピードでの急ブレーキと方向転換があってさすがにびっくりしてしまった。今の時代に商業流通している作品でこれだけワイルドなのはなかなかないですからね。

 

 しかし、……もちろん原作者がどんな話を作ろうとしたのかわからないので比較することは絶対にできないのですが、でも、実際に描かれたこの「亜人」を越えることはできなかったんじゃないかなと思ってしまう。最後までとても面白いし、映画好きな作者の「癖」が前面に出ていることがそのまま長所になっている作品だと思いました。

 

 とにかくとにかく、ちょっとした表情だったり、コマがとらえる画で饒舌に語る漫画の演出がかっこいいんですよね。途中のGPSを3連続で映すところとか…

 

 どんなシーンか書こうとしたのですが、すでにツイートしていたのでそれで済ませます。ここは本当に味があって良くて、ここの話だけで1時間は飲み会できるんじゃないかな。

 

 あとは終盤のメビウス(煙草の銘柄)が出てくるシーンね。最初感動したんだけど、でもさすがにこのストーリーのモチーフをメビウスに託すのは面白すぎる。でも、なんかかっこよく物語に映えている煙草を見ると、その銘柄を吸いたくなっちゃうじゃないですか。俺いまめっちゃメビウス吸いたくなってるしやっぱりこれはめちゃくちゃ良かったってことなんだと思う。

 

「亜人」既刊・関連作品一覧|講談社コミックプラス

 良くないところもいくつかあって、……とはいえその良くないところのほとんどは「原作者がいないのでしかたない」「そこはこのマンガの本題じゃない」くらい言い返しておけば済むような気がするのですが、一点だけ、このマンガでは死なない「亜人」の設定をフルに生かした戦闘が楽しめるのですけど、割と早い段階でこの設定でできることの底をさらしてしまっている感があって、戦闘における根本的な驚きというのが後半はあまり出なかったのが…、とはちょっと思った。

 ハリウッドでリメイクするときはここは必ず直すのではないでしょうか。あとは向こうの事情に合わせてビルに飛行機が突っ込むところをカットして2時間に仕上げればヒット間違いなしであるきっと。