「引きとめたい」について

 

 そして、大学三年の冬の学期中のある日、穂乃果が突然、ルームシェアを解消したいと言いました。私は、穂乃果を引きとめる言葉をひとつも思いつくことができませんでした。ただ、来るときが来てしまったのだな、と思ったのみでした。

 そして、何事もなく一週間が過ぎ、穂乃果はいなくなりました。

#2 引きとめたい | μ's短編 - XHFの小説シリーズ - pixiv

 

 ラブライブ!にハマっていると、このスクールアイドルとかいう得体のしれないことに力を入れている彼女らが、数年後や数十年後、どのような大人になってどのような人生を歩んでいるのだろうか…? ということについて多くの人が真面目に考えるじゃないですか*1

 

 当時僕も自分の体験として、大学卒業~就職の時期を「堅く」いった人と、「あいまいに」いった人とが、同じ目線や密度で交友関係を続けていくことってなかなか難しいんだなあ~、ということを実感していたところだった。

 その真面目な考えや実感が、この園田海未高坂穂乃果が大学在学中にルームシェアを開始し、それが解消されるまでの経緯とその数年後、偶然道端で再開するところを内容としたこのssのボディとなっている。

 

body

 個人的な話ですが、フィクションを作るとき、上述したような「作中で起こる出来事についての考えとそれについての当座の結論」のほかに、(感性に訴えかけてくるような)印象的な小道具・シーン*2と、あと、説明しにくいんですが、作品のなかに組み込みたい仕組みとかギミック、構造というのがあって、その3つがfixされると、詰まらずに最後まで作り切ることができる、という感覚がある。

 「印象的な小道具・シーン」となったのが「さまざまなアイドル研究部bot」のこのツイート。「置きっぱなしのギターを弾く」、いいなあ~😋となって、それから逆算してお話のほかの部品が決まっていくことになる。

 

 現在の話と過去の話を交互にやる、というカットバック方式が「しくみ・構造」*3。べつに珍しいものではないが、過去パートは(オチは現在パートの頭で話しているので)どのように結末に向かっていくかを楽しむ倒叙式、現在パートはそれを踏まえて、関係性にどう区切りをつけるのかを楽しむ正規の叙述、となっているのが工夫したところである。パートごとの呼応も頑張って作っている*4感があって読みかえすとほほえましい。

 

ほほえましい

 あと、文体についてもちょっと触れたいのだけど、この時期「真姫ちゃんが猫になった話」というべつの長いss*5も製作中で、それはなるべく比喩とかは使わない、シンプルな述べを心がける、という方針で作っていた。

 そのため*6、「引きとめたい」は反動で、けっこう文章の装飾が多めである。

 

 とくに冒頭部分*7はすごいですね。「穂乃果の歌がなじみのある場所で聞こえてきたので、そこに向かう」というだけの内容なのですが、非明示的な回想や、冗長な表現、セリフ、あとまだ出てきてない作中要素をほのめかしつつの言い回しとかがあって非常に読みにくい文章になっている*8

 ……ここに関しては、最初の数文はなんのことを言っているのか、いつどこの話でだれが何をしているのかわからないけど、海未が穂乃果の歌声を同定したタイミングでなんのことを言っているのかがわかる、ピントが合う、みたいな感じにしたかったので、これはもくろみ通り成功しているのではないでしょうか。

 

 まあ、読み進めると「無遠慮な考古学者のように」みたいな、「それはいらんだろ」みたいな装飾もあったりするので良し悪しですが……。*9

*1:少数派かもしれない。

*2:個人的にはモチーフと呼んでいる。

*3:個人的にはこれけっこう好きでいちばん最初に作ったフィクションもこれだったし、その後も愛用している。

*4:いま作るんだったらここはさぼるだろう。

*5:8万文字くらいある。

*6:まああと、1人称の語りなので語り手のキャラの違い、使いそうな言葉や言い回しの違いという要素もあるのだが。

*7:「♪」まで。

*8:かわりにキャプションにあらすじはがっつり書いているので、ここを読んでくれ~、読んでる前提ですよ!みたいな心境だった。

*9:あと、もう一点(そのころはあまり意識してなかったからしかたないのだが)、話全体を通したテンションの制御ができてなくて、ちょっと一本調子かなあと思っている。もうすこし内容を削ってメリハリをつけるのがいまの好みだけど、それをしちゃうとまあ別の話かなあという気もする。