ブリュノ・ラトゥール『社会的なものを組み直す アクターネットワーク理論入門』

 

 出来事を、その出来事の背後で働いていて、社会学のトレーニングを受けたひとにしかおもに看取されない「社会の影響」によって説明するタイプの社会学を批判し、そうではなく、世のなかにはアクターという、「ひとやものをひとまとめにした、行為したりほかのアクターに行為させたりする存在」があって、それが行為や行為させる力を変化を付け加えながら伝播させていくことによって通常「社会的な影響が背後にある」とされる出来事は起きていて、その変化と伝搬をアリのように*1個別に追いかけてまとめ、そのまとめる行為そのものもアクターの行為と同等のものである…、タイプの社会学の優位を主張する本である。

 

 最終的にはそのふたつの社会学の対立をきっかけにして、後者のタイプの社会学を採用するときに前提となる、世のなかの出来事がどうなっていてどう展開していくのかに関する根本的ものの見方や、社会学あるいは広く科学のやり方や目標に対する変更を提案するような、おおきな議論をする本になっている。

 

 仮想敵としている社会学フレームワークによる研究や記述の例、それをアクターネットワーク理論の指針に沿って書きなおしたらどうなるか、……というわかりやすい具体例があるわけではない*2ので、具体的な研究や記述を「こういうことかな…?」と自分で例として引っ張り出して本文の記述と合わせてみる、ができる程度にいろいろな科学を勉強した経験がないとちょっと読むのは難しいかもしれない。

 

 ただ、それさえあれば、メインの主張はなんども形を変えて繰り返されるし、あと「社会学の初学者がつまづかないように」との配慮でつけられた訳者の語注がとても丁寧ということもあって、書かれている内容に興味があれば十分読める本、……だと思う。*3

 

 個人的には、「フレームワークを当てはめるのではなく、アクター同士の相互作用をたどっていくことで目指すところにたどりつくタイプの物語」の分析や擁護に援用できるのではないか、という下心があって読んでみた本で、無事下心が達成されたので良かった。アクターネットワーク理論のフォロワーに、なりました。

 

 「『社会学的』フレームワークや理論に押し込める説明をしてくる社会学者がウザい!」というようなよく見かける怒りに呼応して、社会学という学問を新たに作り直そうとしている試みを解説した本でもあるため、そういうところに興味があって読むのも面白いのではないでしょうか。おすすめです。

*1:アクターネットワーク理論の頭文字がもじられている。

*2:参考文献としてはふんだんに紹介されている。

*3:余談だけどちょっと文体には癖があって、訳者にも「アクターネットワーク理論が世間に誤解されるのはあなたの文体のせいもあるのでは?」と突っ込まれていたのが、ちょっとおもしろポイントだった。