NATGEOは無限に読めるのよ

 

 もう、もう、面白くてたまらない。ずっと読んでいる。なにを? ナショナルジオグラフィックのWeb記事を。

 

 とくにはまっていたのが「北西航路」と題されたこの3本からなる連載記事だ。

 

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 北西航路というのは、こういうふうにカナダの上を通ってヨーロッパからユーラシア大陸の太平洋岸へ向かう航海ルートのことである。

 ヨーロッパとアジアを繋ぐ航海ルートはそれまで、アフリカの下を回るルートと、南アメリカの下を回るルートがあったけど、北からも行ける第三、第四のルートがあるんじゃないか? と思って海の探検家たちが開拓を目指した。

 

 しかし地図をパッと見てわかるように、ここはめちゃくちゃ寒くてなにもないうえに、海は海氷に閉ざされている。そのうえ海岸線もくちゃくちゃで、地図を作りつつルートを切り拓いていくのには相当な困難が伴った。探検隊のいくつかは部分的な成果を上げて無事に帰ってきたが、運の悪かった残りは、船を失い、食料を失い、そのまま雪と氷の大地で壮絶かつ緩慢な死を遂げていった。

 

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 そんな北西航路を徒歩で旅する探検家の視点から描くのがこの連載記事である。北西航路の開拓の歴史が、いまそのおなじ土地を行く探検家のリアルな心境とオーバーラップさせる形で書かれたテクストになっていて、とても面白い。

 

だがこの探検で、J・C・ロスはたったひとつだけ、キングウイリアム島の全体像について大きな勘違いをしていた。彼は自分が初めて到達したこの島を、キングウイリアム島ではなく、キングウイリアムランドと呼んだのだ。つまり、キングウイリアム島を島ではなく、ブーシア半島から西に出っ張った、北米大陸の一部であると思い込んでいたのである。

 それぞれの回は、単なる過去と未来の二つの旅の記述ではなく、それにひとつのアイディアを混ぜ合わせたものになっている。「地図のない旅」と副題がつけられた第2回、キングウイリアム島を扱った文章では、地図のない時代、西へ行くか東へ行くかの二択を誤り、結果全員死ぬこととなってしまったフランクリン探検隊に思いを馳せつつ、地球全体の地図が完成してしまったいま、彼らとおなじような勇気ある探検が自分にはできないことをすこし惜しく思っているようなことを書く。

 

だが実際に旅をしてみると、この164年の間に旅の有り様を変えた、そのもっとも大きな原因を作ったのが、実はそうした便利で現代的な装備ではなく、たった一枚の地図であることに、現代の極地探検家は否が応でも気づかされる。

 穏やかながら、気持ちのこもった文章だ。ちょうどいいくらいの温度に保たれた室内で読んでいるのがちょっと居心地の悪い気分になる。

 

 ほかの2回も面白いし、それ以外の北西航路を取り扱ったネット上のテキストも大体面白い。北西航路をだいたい読み終えてしまったあとは、……なんとロシアの上を回る「北東航路」の話も北西航路に匹敵するほど奥が深いので、2倍楽しめます。

 

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 暑い日々が続くなか、ちょっとした涼みに、極寒の海を切り拓いた探検と死のストーリーを読んでみるのはいかがでしょうか。