はじめての感情

 

 朝起きて「あー! 起きた! Twitterでも見ようかな!」と思って見たら飛び込んできたニュースだった。こういう事態に慣れている、例えば鹿島アントラーズFC東京といったクラブのサポーターだったら、トレンドに選手の名前を見つけた時点で「その予感」を感じ取るのかもしれないが、僕は「鈴木武蔵選手がニュースになってる! なんだろ??」ぐらいの気持ちでニュースを見てしまった。

 

 鈴木武蔵は昨シーズンから札幌に加入した選手で、決して長い時間を札幌で過ごしてくれた選手ではないのだけれど、なんというかファンサをいとわないキャラクターで、スコアラーでもあったということでメディア露出も多かった。時間とは関係なく、コンサドーレ札幌と言えば?の答えのひとつとなりつつあった選手である。

 昨シーズンも札幌のレギュラーとして戦ってくれたが、今シーズンが始まってからのプレーは目覚ましく、このスピードで走りつつこの判断とキックができる選手がどうして札幌にいるんだろう?と思うことも多かった。実際にニュースを見るまでは海外移籍の可能性なんて考えたこともなかったが、見てしまえば、たしかに、そうだよなあ、とも思う。

 

 北海道コンサドーレ札幌の歴史において(こういう、オファーが来るような形で)海外のクラブへ日本人の選手がステップアップの移籍をすることはほとんどなかった。はじめての経験なので、いまいち、どんな気分になればいいのかよくわからない。ほかのクラブがそういった状態になったときにどうなっていたのかは見ていたが……。見ているのとなるのではぜんぜんちがう。

 

 そうだよなあ、とも思うんだけど、いなくなっちゃうのはやっぱり寂しい。戦力として、とかそういう意味じゃなくて、ピッチ上で武蔵選手のランやドリブル、シュートを見られなくなるのが、なんか、悲しい。

 そのうえで、とても楽しみでもある。スピードがあって、スピードに乗った状態で中央に切り込んで勝負できるアタッカーは世界中で需要があるし、鈴木武蔵選手もその競争にわってはいる実力があると思う。もしベルギーで活躍して、そのまま大きなリーグにさらに引き抜かれたりして…、とか考えてしまう。

 クラブとしても、うれしい。ここで鈴木武蔵を手放すことで得られるお金もあるだろうし(もちろん、長崎から買ったときより高く売れるだろう)、それ以上にレピュテーションの上りが大きい。選手を育てて売るクラブになるというのがクラブの中期的な目標だろうけれど、それを実現するための、おおきな実績ができた。

 

 とはいえ、不安もある。移籍先のクラブはベルギー2部から昇格したばかりの、ちょっとまえには財政破綻も経験したクラブだし、そうでなくても海外リーグで試合に絡めない選手はいくらでもいる。

 コンサドーレ札幌的にも、つぎの試合は因縁のある川崎フロンターレ戦で絶対に勝ちたい。そして鈴木選手が抜けたあとのフィニッシャーの問題を、札幌はまだ解決できていない。

 

 この回が公開されているころには鈴木選手はベルギーにいて、そこでメディカルチェックを受けているらしい。川崎フロンターレとの試合も終わっているだろう。いまはまだ、選手が海外にステップアップしてしまうときになるはじめての感情で、これがポジティブな感情なのかネガティブな感情なのかもわかっていないが、そのころにはなんとなくわかっているのではないか。

 

 鈴木選手をいつまでも応援しています。