「COSMIC BOX」の好きなlineランキングベスト5

 

 

 YUKIの楽曲「COSMIC BOX」は、フレーズのひとつひとつに物語がある。それぞれの詩行をもっと展開していけば、それぞれが一個の世界観を持った詩になるはずなのに。……イマジネーションの魔王YUKIはそんな貧乏くさいことはせず、たくさんのアイディアをひとつの歌のなかにちりばめて使っている。

 「COSMIC BOX」はひとつの曲としてとても素晴らしいんだけど、ひとつの曲としてだけ楽しまれるのはちょっともったいない。とりあえず僕は行単位でのランキングを発表するので、皆様におかれましても、この曲を、もっとミクロな視点で、いくつもの世界や物語の重なりあいとして楽しんでほしい。

 

5位 「月で生まれた人は 地球には戻れない」

 これが歌いだしなのだけど、一行目からハードパンチすぎる。『君に友達はいらない』とか『君はロックを聞かない』とか『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』といった例を挙げるまでもないでしょう。唐突に出てくる否定文は、詩に意外性と深みをもたらすということはよく知られている。

 「地球には戻れない」という部分は悲しいようでもあるが、「月で生まれた人」という、簡単にはその心情を推し量れないくらい現実から離れたSF設定が、ほんとうにこのシチュエーションを悲しんでいいのか宙づりにしていて、そこに物語的なアイロニーを感じる。

 

4位 「見たことのない海に 憧れてため息」

 これはワンフレーズだけ切り取って良さが伝わるタイプの詩句ではなく、歌詞のなかでどのような位置に置かれているかにその輝きを依存しているのだけど、ここで取り上げたのは個人的にとても心を惹かれて、この部分の歌詞にささげるようなショートストーリーを大昔に作ったことがあるから。

 「水族館」というタイトルのお話で、前世の記憶を持っているのが当然の世界があって、その世界の学校のクラスが舞台で、そのクラスは偶然全員前世が海の生き物で、クラス旅行で水族館に行くのだけれど、ひとりだけ見るのすら嫌がるくらい水槽を嫌うクラスメイトがいて…、という話なのですが、個人的にめちゃくちゃ気に入っている。

 

3位 「遥か遠い昔から 意味のある偶然を伝えているんだ」

 「COSMIC BOX」の歌詞はいろいろな科学っぽいモチーフを裏に表に張り巡らせて書かれているのだけど、この部分からはとても「遺伝子」みを感じる。その解釈で行くのなら、「意味のある偶然」というのは「たまたま環境に適合した突然変異」ということ。遥か過去から、月に人間が到達してもはやネイティブ月人も珍しくなくなるくらいの未来にまで、偶然を運んでいく乗り物なのである、我々は。

 

2位 「時計は逆戻り となりの席のあの子 ズル休み」

 いやびっくりするわ。時間的にも空間的にも概念的にも、巨視的なスケールを歌っていた歌が、「時計は逆戻り」という魔法のひと言で学校生活の何気ないひとコマと接続されている。このワンフレーズだけで「COSMIC BOX」はセカイ系の傑作にもなっているんですね。

 想像して脳裏に見てほしい。セカイ系アニメの劇場版オープニングテーマにこの曲が使われていて、ほかの部分では宇宙船とか戦闘とか地球防衛組織とかが描かれるんだけど、このフレーズを歌う部分だけ教室の情景になっていたら。……となりの席のあの子はずる休みしているんじゃなくて、宇宙人と戦っているのでしょう。エモすぎて崩れ落ちそうになる。

 

1位 「もしも恋に落ちたら 能力を失う」

 もしも恋に落ちたら、能力を失う……? そんなエモいことあるか!?!??

 豊かな物語の広がりを持っているこのフレーズは、歌詞全体のなかでは若干浮いているんだけど、だからこそこの部分に差しかかるたびにはっとさせられる。歌詞のなかで機能を果たしているというよりは、外側に向かって開かれているこの部分。聞くたびに自分勝手な想像を膨らませてしまうし、そのうちのいくつかは個人的にもお気に入りの空想になっていて継続的に育てている。

 能力バトルもののお話で、こう、能力を持った能力者たちが選抜されて学園とかに通ってるんだけど、「だれかに恋をしたら能力を失って退学になる」っていうルールがあって、実態はバトルものの皮をかぶったラブコメ、……みたいなマンガあったら絶対天下取れると思うんですよね。だれもやらなかったら絵の練習をして是非僕がやりたいと思っている。