届くべきひとにはもうすでに100%行き届いているのではないか、という思いはあるのだけど、もしかしたら、「この漫画が刺さる素質を持っているのに、まだこの漫画に巡り合えていない」というひとがここを見ているひとのなかにいるかもしれないので、『児玉まりあ文学集成』の話をしておきたい。
「トーチ」という個人的にもいまだになんなのかよくわかっていない漫画メディア*1があって、そこで連載されている。最初の二話と直近の七話分がWeb上で公開されていて、残りの部分は単行本で読むことができる。各回は繋がっていって最後にまとまっていきそうな気配もあるが、ひとまずは内容的に独立している。
第一話「比喩の練習」では、「この宇宙に今まで存在しなかった」、「言葉の上でだけ」の関係を、文学部部員の児玉まりあが次々とこの世に生み出していくようすが描かれる。同行している笛田君は、児玉まりあのことが大好きで崇拝している入部希望者の少年である。
文学のトピック*2をモチーフとしてとりあつかいながら、ふたりの掛け合いを中心にした、「僕の心のヤバいやつ」とか「となりの関くん」とかと形式的にはおなじ感じのショートストーリーが描かれる。この配合の比率がかなり絶妙で、文学的な深遠さを目指す部分と、この感じのジャンルの漫画の文脈をうまく利用してすらっと終わらせる部分とがきれいにマリアージュしている。
とくに一話の迫りかたは素晴らしく、も~う本当に奇跡的な出来になっている。お話としても面白いし、オチもきれいだし*3、トピックの掘り下げかたや飾りかたもこの上ない。
そのうえ細部の仕上げも神がかっていて、作中に実例として出てくる比喩までぜんぶ高得点をたたき出している。どちらかというと着想と構造のほうが大事な作品なので、中身の比喩はそんなに上手じゃなくても作品としては成立するような作りだとは思うんだけど、さぼらずしっかり良い比喩を考えてあってすごい。
この完成度の作品を連載するって正気か?と思っていたのだけど、とくにクオリティをおおきく振れさせることなく14話まで更新されている。更新頻度は多いほうではないが、質を考えるとこれが全力疾走でしょう。個人的には断章形式を題材にした第十話「ワールドプロセッサー」が好みです。
ちなみにマリア・コダマというのはボルヘスの配偶者の名前でもある。