大好きなあなたと

 

大好きなあなたを
悲劇のなかに置き去りにして
本を閉じる

 

眠りのなかで
魂はあけわたされ
たしかに置き去りにしたはずのあなたが
こんど演じるのは
当てつけのようなハッピーエンド

 

逃げるように目を覚ますと
あなたは目の前にいる
つきつけられたのは
書き換えられた新しい過去
こんなにも長い期間
あなたと暮らしてきたことの浪費
つながりに費やした奇貨

 

そうであるならば、剃刀で線を引く
あなたの目を盗んで
浴槽のなかに身を隠し
血が意識とともに水へ溶けていく
大好きなあなたは
決してついてこれない
……だと思うが、しかし

 

そしてそのあとは
人生のあとにある暗い永遠
無音の真実のなかにいて
おそるおそる手と足を伸ばす
あなたはいない
うれしくも寂しくもあるが
間違いなく、あなたはいない