「あなたはフリーターで暇があるんだから、都電荒川線が通っているところをいろいろ回ったほうがよい。そうだ、王子にある飛鳥山公園とかはどうじゃ? 王子駅前から山頂へモノレールが通っていて、確か無料で乗れたはずじゃ」と先日行った喫茶店兼定食屋のおじいさんに言われていたのを思い出して、急遽三ノ輪橋駅から電車に乗って王子に行った。王子といえば、ラッパーのKOHHが「薬物とかよく見るけど落ち着くのは結局地元」と歌ってる以外のことはなにも知らない。
おじいさんの記憶の通り、モノレールはあって無料だった。飛鳥山モノレールという名前はついているが、運行形態としてはエレベータに近い。定期的に上と下を往復しているわけではなく、ボタンを押すとオンデマンドで降りてくる。
モノレールを降りるとすぐに山頂を表すモニュメントがある。山頂のほかには結構大きめの子供用遊具スペースがあり、さらに行くと芝生に覆われたスペースがあり、ちょっとしたテントを立てて楽しんでいる年配のカップルがいた。駅に近い山肌部分はうっそうとしていて見晴らしが悪く、その地理条件を利用して、タオルをバンダナ巻きにしたお兄ちゃんがホルンの音階練習をしていた。
ほかには飛鳥山3つの博物館と総称される博物館が3つあったりした。一回りしてみて、べつに退屈ではなかったけど、なにか心が躍るようなことがあったわけでもなかった。
駅の北側にでてみると、かなり良いものがあった。音無親水公園というらしく、名前もかなり良い。流れのなかには入れるようになっていて、子供たちがたくさん水遊びしていた。
でもいきなり現れたこの水はなんなんだろうと思って周囲の立て札を調べてみたら、どうやらこれは石神井川の一部らしく、この先すぐに東のほうで隅田川と合流するが、上流は花小金井くらいまでたどることができる。せっかくなので上流のほうへ、道が途絶えるまで歩いていくことにした。
これが個人的にはとても楽しかった。河岸はずっと遊歩道として整備されていて、立て札とか音の出る彫刻とか、楽しいものがたくさん置かれていた。さらに、地図上で矢印で示したように、河岸に沿っていくつもの小緑地が整備されていて、自然と触れあえるようになっていた。
この緑地は面白くて、U字状になった緑地と川が一つのブロックを取り囲んでいるが、その内側は普通に住宅地だった。緑地は水を引き込むために、内側の住宅地よりすこし低めに作られていて、じゃあこの内側に住んでいる人はどうやって出入りするの?って思ってたらなんと、緑地の上につり橋がかかっていて内側と外側をつないでいた。住んでいる人はつり橋の上を渡り、緑地を散策している人はつり橋をくぐることになる。交わらない二つの人生がそこで交差する。
川沿いは途中から離れてしまったが、そのあとも歩き続けて、最終的には大山まで来た。有名な出身ラッパーもおらず、まったく聞いたことがない街だったが、アーケードがあったりいい感じの飲み屋が並んでいたりして楽しかった。駅前には「銃所持をやめましょう!」という標語が書かれた看板があり、その上からおびただしい数の落書きが重ねられていた。この国で銃を持っているようなタイプの人間に、言葉はどれくらい有効なのだろうか、とちょっと考えてしまった。