深海6200メートル

 

深海6200メートル
青い宇宙のなかにいて
彼は幸せだった

 

自分の内側で起こるおもしろい出来事を
地上へ報告しなければいけない義務なんて
課されていないから

 

しかしあるとき
足元に埋めていた緑色の葉っぱが
内側に種を作っていた
種は自律器官の働きによって芽吹き
やがて双葉アンテナとなって
地上へと自らを知らしめはじめた

 

発しているのは微弱な電波だが
この宇宙の法則によれば
微弱なものほど遠くまで届くことができる

 

電波の反響は
彼を酩酊させる
けれど自分で埋めたものを
自分で土に返すわけにもいかない

 

深海生物の死骸が初雪になって
この新しい関係の周りに降りそそぐ
環境も祝っているのだ
彼がそれを歓迎するかは、ともかく