なかなか見たことない構図の試合だった。
トッテナムは前線の3枚を極端に中央に寄せた守り方をしていて、サイドに寄せられたボールには2列目のホイビュア、デレ・アリがスライドして寄せる。前線の3枚は中央を守るといっても、相手CBからしたら簡単にサイドにボールを出せば外せるので、積極的にプレスをかけることはできない。
プレスがかからない状態だと、中央に人が集まって守っているとはいえ、アンカーや下りてくるインサイドハーフのふたりにボールを当てるくらいはできてしまう。シティのアンカーや下りてくるインサイドハーフというと、フェルナンジーニョとギュンドアンとグリーリッシュである。普通にターンしてキープしてはたいて、で決定的なチャンスを作られそうにめっちゃ見えた。
しかし、シティはシティでビルドアップ時に両サイドバックを内側にいれるという窮屈な形をプレシーズンから採用している。バンジャマン・メンディという、どう考えてもそういうプレーが得意ではない選手にまでやらせているので、本当に狙いがあってやっていることなのだと思う。
「カウンター対策のため」「ウィングへのパスルートを開けるため」といった指摘はされているものの、メリットとデメリットがつりあっていないように見える(し、シティはぎこちないビルドアップのままふつうにコミュニティシールドと合わせて連敗している)。
しかし、シティの監督、ペップ・グアルディオラといえば、サッカーに関しては三国志でいう諸葛亮孔明のような人である。なぜこうしているのかはわからないが、なにかお考えがあるのだろう…、という感じだ。なぜ、シティがこんなビルドアップをしているのかは現状、サッカー界最大の謎となっている。
日本のサッカー解説者のなかで、戦術に関してはとくに信頼されている戸田和幸さんも実況中「僕のような凡人には分からない…」と言った。戸田さんが自分のことを凡人だと思わせられてしまうなんて、なんと深い戦術なんだ。
その瞬間僕はわきまえ、起きている出来事をただ受け入れるモードに移行した。
それに対して、スパーズの狙いはシンプルでまっすぐだった。守備時は我慢して内側のゾーンを守る。ゾーン内にくさびが入ってきたら、フェルナンジーニョとギュンドアンとグリーリッシュはなにがなんでも囲んでつぶしてショートカウンター。
ウィングにボールが出たら撤退し、相手のサイドバックが上がった後ろのスペースを前三枚のアタッカーで攻略、ロングカウンターで勝負を決める。
ボール循環からビルドアップ、組み立て、キーパスから、ラストパス、フィニッシュまですべてをこなせるケインがいない今、ソン・フンミン、ルーカス・モウラ、ベルフワインという快速アタッカーたちを、スピードに乗った最高の状態でプレーさせることで勝ち点を取る。
DF面でも、ダイアーやサンチェスはあいかわらず頼りないけれど、がっつり撤退して、ただブロックに入ってきたボールと人をつぶすことにタスクを限定させてやればとても頼りになる選手であることがわかった。
スパーズがとったのはメリットもデメリットもはっきりしている戦術だったので、最初はとても不安だったが、いま思えば、スカッドから逆算されたとても理由がわかる戦いかただったのではないか。今回は何とかそのまま試合を完遂し、ホームでのシティ戦を4戦4勝とした。シティに勝つのは、いつだってうれしいね。